「水素社会」実現のカギはアンモニア技術が握る?
エネルギーを直接取り出せるよう「使う」
さらに、2つの画期的な研究成果が2017年に発表されました。 水素は爆発的に燃えますが、アンモニアは燃える速度が遅いため火をつけても燃え続けません。エネルギーを取り出しにくいアンモニアから、直接エネルギーを得ることができたのです(ちなみに、アンモニアは燃えない気体と記憶している人も多いかもしれませんが、実は空気と適度な割合で混ぜると火がつき、燃やすことができます)。 1つ目は、アンモニアと空気を混ぜて火をつける、いわゆる「直接燃焼法」の改良です。小林秀昭教授(東北大学)は、アンモニアが燃えるまで対流が続くよう気流を制御し、2015年にアンモニアを安定して燃焼させた発電に成功しました。アンモニアは単に燃やせば窒素酸化物という酸性雨などの原因物質が発生します。しかし、小林教授は空気との供給割合や供給速度によって、窒素酸化物の発生を抑えられることも発見しました。 そして、2017年7月、岡山県の水島発電所2号機においてアンモニアを含むガスを使った火力発電の実証実験が行われました。アンモニア含有量は0.8%とまだ多くありませんが、アンモニアを燃料として利用するための大きな一歩です。
2つ目は、「アンモニア燃料電池」です。燃料電池とは、名前の通り、水素やアルコールなどの燃料から電気を取り出す電池です。乾電池や携帯電話のバッテリーと違い、燃料を供給し続ければ常に電気を作り出すことができるという特徴があります。大きな電力を供給し続けることができるのです。 「固体酸化物形燃料電池」と呼ばれるタイプの燃料電池は、発電効率が現在の火力発電に匹敵するほど高い一方、高い温度が必要であり、起動に時間がかかることが課題でした。2017年、江口浩一教授(京都大学)はアンモニアの燃焼熱を同時に利用することで、起動時間短縮に成功したのです。 燃料電池の大型化やアンモニアの流れ方を制御することで、1 kWまで発電能力は向上しました。そして、この燃料電池から窒素酸化物はほとんど発生しません。このアンモニア燃料電池は小型化し、電気が必要なその場で使うオンサイト利用も期待されます。 エネルギーを得るためのアンモニアを「使う」方法も実現に近づいているようです。