「水素社会」実現のカギはアンモニア技術が握る?
アンモニアをより簡単に「作る」
ハーバー・ボッシュ法は「窒素ガス」と「水素ガス」を「約500度・約200気圧」という高温・高圧で反応させます。これは、100年前にドイツの技術者アルヴィン・ミタッシュが1万回以上の実験から見つけ出し、現在でも使われる最高の触媒を使った条件です。触媒とは化学反応の速度を速める物質。しかし、全人類を支えるアンモニアを作り出すために必要な温度と圧力は大量の電力を必要とし、全世界で消費される電力の1~2%といわれています。そして、アンモニア合成に必要な大電力は大量の化石燃料を消費して作られていることが課題でした。 その触媒を大きく改良することに成功した研究が日本に2つあります。
1つ目は、西林仁昭教授(東京大学)と吉澤一成教授(九州大学)の成果です。2017年、西林教授と吉澤教授は、室温・大気圧(私たちが普段生活している20度前後、1気圧)という穏やかな環境でアンモニアを生成する2種類の触媒を発表しました。この触媒はモリブデン(Mo)という、窒素固定菌も利用している金属を含みます。
西林教授は、ヨウ素原子を挿入するというシンプルな方法で、より効率的に窒素を分解する新方式の反応を実現したのです(上図右の化合物)。吉澤教授はコンピューター計算によって、これを詳しく解明しました。西林教授と吉澤教授はその反応方式を「マリアージュ機構」と名付け、アンモニア生成関連分野のブレークスルーであると述べています。西林教授の合成技術と吉澤教授の計算技術が組み合わさったからこそ得られた革新的な発見です。
2つ目は、細野秀雄教授(東京工業大学)の成果です。細野教授は、カルシウムというありふれた金属の化合物を使い、ルテニウムという金属を表面に散りばめるとアンモニアを作る触媒となることを発見しました。細野教授はさらに改良を加え、今年1月、バリウムという金属を足すことで、触媒の表面が広くなり、アンモニアがより効率よく生成されることを発見しました(図4)。この触媒は「300度・9気圧」で働き、アンモニア合成速度はハーバー・ボッシュ法をも超えます。 この2つの成果によって、アンモニアはより安価に効率的に「作る」ことができそうです。