二塁へ送球するエナジックスポーツ高等学院・龍山暖（撮影・木村　揚輔）

　24日に行われるドラフト会議。フリーライターの菊地選手（42）が、全国を飛び回り探し出した隠し玉を紹介する。 【写真あり】【スポニチが選ぶ虎のドラフト候補　野手編】狙うは左打ちの外野手　富士大・麦谷にロックオン 　ある九州地区担当スカウトが真顔で明かした。「守備は箱山より龍山のほうが上ですよ」 　今年の高校生ナンバーワン捕手は箱山遥人（健大高崎）と見る人間がほとんどだろう。今春選抜優勝に導いた強肩捕手で、絶対的なリーダーシップの持ち主だ。ところが、全国的な知名度こそないものの、玄人筋の間でぐんぐん評価を高めている高校生捕手がいる。 　龍山暖。沖縄の新興勢力・エナジックスポーツの強肩捕手である。ほとんどメディア露出がない謎の原石に会うために、沖縄・名護へと飛ぶことにした。 　のっけから衝撃を覚えた。力強くフットワークを使って投げ込む二塁送球は、極めて低い軌道を描く。二塁ベース手前で失速することなく、むしろロケット噴射のように加速する体感。スピードガンには「137キロ」という球速が表示された。龍山本人によると、この日に自己最速を1キロ更新したという。 　紅白戦では走者の離塁が大きいと見るや、頻繁に一塁や三塁にけん制球を投げ込む。時には膝を着いたまま三塁に投げ、走者をアウトにする離れ業を見せた。この守備力は本物だ。龍山は「相手チームに盗塁をあきらめさせる送球を心がけています。スローイングの強さは箱山くんにも負けてないと思います」と強気に語る。 　龍山の武器は肩だけではない。50メートル走6秒2の俊足で、盗塁も得意にする。運動能力を加味すれば、箱山より高く評価するスカウトがいるのもうなずける。 　創部3年目のエナジックスポーツは今夏の沖縄大会で準優勝と躍進した。その一方で「野球ばかりで学業をおろそかにしている」という批判にもさらされた。実態を聞くと、龍山は苦笑交じりに答えた。 　「よく“勉強してる？”って聞かれるんですけど、検定対策で朝5時半から勉強したり、夜22時の消灯ギリギリまで粘ったりもします。1期生全員が情報処理検定1級、プレゼンテーション検定1級を取得していますし、野球も勉強も頑張ってきました」 　沖縄の地で育まれた豊かなポテンシャルと、新たな歴史をつくろうとする気概。全国の野球ファンが龍山暖の存在に気づく日は、そう遠くなさそうだ。 　◇龍山　暖（たつやま・はるき）2006年（平18）5月13日生まれ、沖縄県出身の18歳。中学時代は「読谷ボーイズ」でプレーし、エナジックスポーツの1期生として入学。高校通算19本塁打の強打と、遠投110メートルの強肩、50メートル走6秒2の俊足を武器にする。今夏は攻守の大黒柱として沖縄大会準優勝を経験。1メートル75、78キロ。右投げ右打ち。 　◇菊地選手（きくちせんしゅ）1982年（昭57）生まれ。本名・菊地高弘。雑誌「野球小僧」「野球太郎」の編集部員を経て、15年4月からフリーライターに。ドラフト候補の取材をメインに活動し、X上で「大谷翔平」と投稿した最初の人物（10年10月8日）。野球部員の生態を分析する「野球部研究家」としても活動しつつ、さまざまな媒体で選手視点からの記事を寄稿している。著書にあるある本の元祖「野球部あるある」（集英社）などがある。Xアカウント:＠kikuchiplayer