宮野真守は“二面性”で魅せる声優だ 『忘却バッテリー』『キン肉マン』などでの“振り幅”
宮野真守が徹底した、要圭の“二重人格”という設定
要圭には同じ二面性でも、キン肉マンや面堂とは違った乖離がある。徹底していると言っても良い。小手指高校で山田が出会った圭はとにかくお調子者で、面倒くさがり屋でもあって、あらゆることに真正面から取り組もうとしない。新入生を募集していた野球部に葉流火が興味を示し、入部した上で圭を誘っても買いかぶり過ぎだと言って逃げようとする。先輩から因縁をふっかけられ、葉流火がバッティングピッチャーを務めることになった時も、いちおうマスクは被って見せたものの、空元気といった雰囲気の声だった。 その後も、とりあえず捕手として野球部に入ったものの、智将ぶりは戻らず葉流火に全力投球させられない状況が続いていたものが、第9話「誰に向かって口きいてんだ」で一変。かつての智将ぶり、イケメンぶりが戻ってきたのだ。その声ももちろん同じ宮野だが、お調子者だった時の人格は微塵もない。まるで別人といった感じがするところに、キン肉マンや面堂とは違った二面性の出し方があるように感じられる。 それは、智将の時とアホの時の圭が本人的にも別の人格として存在していたからなのかもしれない。宮野はそんな、同じ声帯を持った同じ人間でありながら、まったく違う人格を自身もひとつしかない声帯で演じてのけたということになる。あらゆる役になりきってみせる名人で、『銀河英雄伝説』のラインハルト・フォン・ローエングラムのように強靱な意志を持った皇帝から、『ゾンビランドサガ』でゾンビ化した少女たちをアイドルとしてこき使う強欲なプロデューサーまで演じてのけるプロ中のプロが、次に挑んだ新境地と言えるかもしれない。 ●“チームプレーヤー”だからこその醍醐味 『忘却バッテリー』の面白さは、宮野が演じる圭ひとりにあるわけではない。子供の頃から圭を信じてついてきた葉流火の野球選手としてのストイックさがあり、だからこそ繰り出せる凄まじい剛速球や素晴らしい打撃があって、これこそがアスリートだと感嘆できる。将来有望な内野手だったが、葉流火と圭のバッテリーにコテンパンにされ、野球を辞めて小手指に進学した藤堂葵と千早瞬平が、やはり野球を諦められずに戻ってきて活躍する姿にも感動できる。 名前からして脇の脇にしか思えない山田太郎ですら、部員たちの間をつなぎ野球部を盛り立てる役割を果たす。そうしたチーム一丸となって強豪校に挑み、勝利するような逆転のドラマで、スポーツ好きを存分に楽しませてくれる。そうしたメンバーに揉まれて、圭もかつての智将だった時のことを本格的に思い出すのかというと、それはTVアニメ第2期のお楽しみ。2つの人格がひとつの体に宿る圭が、さらに変化していく姿を見られ、同時にそうした変化をしっかりと汲み取って、声に乗せ、演じてのける宮野の凄さを聴けるだろう。 原作の方はといえば、葉流火や圭たちが2年生へと進み、下級生も入ってきた小手指高校野球部で、やはり行ったり来たりをしながら捕手を務める圭の活躍と、相変わらずの豪腕ぶりを見せる葉流火の姿が描かれる。智将と呼ばれただけあって、対戦相手のデータをしっかりと集めて分析し、キャッチングの音を響かせて好投球ぶりを見せつけるとなど、投げる打つ走るといったプレー以外の野球の機微について触れさせてくれる。そこまでTVアニメが続けば、より洗練されて深まった宮野の超絶演技を見られることだろう。
タニグチリウイチ