星野概念が考えるメンタルヘルスの現在地──「Change is Not Good。そんなときがあってもいい」
変わりたいと焦らない。まずは観察してみよう
──なかなか一概には言えないと思いますが、私たちが「つらい気持ちや、しんどい今の状況を変えたい!」と思ったら、星野さんはまずどんなアクションをするのがよいと思いますか。 心がつらいときって、すぐに対処したくなってしまうと思います。でも、つらくて余裕がないときほど、自分に何が起こっているかをきちんと把握できていないものではないでしょうか。焦って処置を施すような形になると、余計にこじれてしまうことも少なくありません。 だから僕が大事だと思うのは、まずは落ち着いて、誰かと一緒にそのしんどさをじっくり眺めてみるようなことです。ひとは未知なものに対してこそ、余計に不安になってしまいますから。医療従事者に限らず、安心して話ができる相手がいるといいし、医療の場はその最たる場であるべきだと思います。
あらゆるものは、絶えず少しずつ変わっていく。
──感覚的ですが、「Change」ってとても強い言葉に感じます。人がマインドや環境を変えるには、ドラスティック(=抜本的な、思い切った)な考え方の転換や、大胆な行動が必要な気がして、尻込みしてしまっているのかもしれません。 それは、すごく大事な指摘だと思います。僕も「変えよう」っていう意識を持てば持つほど、逆にそんなに変わらないんじゃないかな、って思うんです。目標設定によってモチベーションが上がること自体は、すごく良いことですよね。でも不思議なことに、なんだって狙うほど、はずれが生じるものでもあるし、そもそも狙わなければ外れないとも言えます。 それに、極端な変化があるときって、僕はすごく危険なサインでもあると思っています。薬と同じで、効果が強いほど副作用も大きい。目標に向かってまっしぐらに取り組んでいる期間は、迷いも生まれない。でも、もし結果的に期待通りの変化が起こらなければ、いつも以上に落ち込んで余計につらく感じてしまうかもしれません。 だから「変えるぞ」って意気込まず、「変わっていくだろう」みたいな心持ちが大事なんじゃないかな。曖昧な状態が続き、常に変化の中にいると、「もう早く変わってほしい」「いい加減、結果が出てほしい」という気持ちになってしまうでしょう。でも、自分はこうした不確実性の中に身を置いているんだと自覚を持つことも、すごく大事だと思います。それに、変化のない状況に根気よく付き合っていった人が、ある日突然「あ、そうか!」って、何かをつかむ瞬間が結構あるんですよ。そういう小さな発見が積み重なって、人は変わっていくんじゃないかな。 何もしなくても、この世のあらゆることは絶えず変わっていくものです。変わらないように生活しているつもりでも、細胞は入れ替わり、どうしても身体は少しずつ老けていきます。心だって、やっぱり変わっていく。僕は、それが「ものの理(ことわり)」のような気がします。