星野概念が考えるメンタルヘルスの現在地──「Change is Not Good。そんなときがあってもいい」
集まって話すことの効能。地味だけど
──健全なメンタルヘルスを保つためには、自律的に気持ちを切り替えて変化することが望ましい場面もあると思います。そのためのワークやスキルについて、星野さんは何かアイデアをお持ちですか。 今年は、年始から地震や空港での衝突事故など、非常に悲しいニュースが重なりましたよね。それ以前からも、長引く戦争や虐殺で、たくさんの人たちが心を痛めています。でも結局、そんなときに必要なのは、安全で安心な、身を寄せて話せる場所があることだと思います。 実際に、僕がいとうせいこうさんたちと、月に一回オンラインで開催している「心のことを話してみる場所」(通称、心場所)というミーティングでも、みんなでこうした内容について話をしました。限られた時間に集まって、声を発し気持ちを寄せ合うだけですが、想像以上に不安やつらさが和らいだ。話し手だけではなく聞き手の中にも、やわらかい変化が生まれたように思います。
「自分のトリセツ」というお守り
もう一つ挙げるなら、何か作業に打ち込むのもいいと思います。考えがぐるぐるとめぐっている状態になると、なかなか心配ごとから離れられませんよね。コロナ禍でそんな状態になったとき、僕は無心でぬか床をかき混ぜていました。紙にひたすらぐりぐりと線を描くとか、プチプチ(緩衝材)を潰し続けるとかでもいい。人によって、どんなことで脳が喜ぶかは異なりますが、誰しも、もやもやからちょっと離れられるような作業があるような気がします。そういうのを持っておくのも、大事なことじゃないかな。 心が落ち着いている際に「もやもやしたとき、こうすると心が落ち着いた。しんどさを一瞬でも忘れられた」ことを発見してメモし、「自分のトリセツ」をつくっておくと、一つのお守りみたいになるかもしれませんね。 「集まって話す」とか「作業に無心になる」なんて、本当に地味なアイデアですよね。でも、劇的な効果がある万能メソッドみたいなものは、やっぱりないような気がします。地味なんだけど、とても大事な気がする。