新生・早稲田ラグビーの秘密兵器!
「主役」が「脇役」を目指している。早大ラグビー部3年、布巻峻介のことだ。今春、ランにパスにタックルにとオールラウンドに駆け回るセンターから、肉弾戦でのせめぎ合いで身体を張るフランカーに働き場を変えた。日本代表入りを目指すためのこのコンバートは、2013年度大学ラグビー界の注目点のひとつである。 東福岡高時代、布巻は「逸材」の名をほしいままにしてきた。攻めてはどんな密集も体勢を崩さずに突っ切り、外のスペースに簡潔かつ鋭いパスを放つ。守っても強烈なタックルを連発し、相手の持つ球に手をかければ「8割くらいの力。リラックス。ボールから掌は離さないようにはしてますけど」と、そのまま、もぎ取ってしまう。各年代の代表には必ず名を連ねた。 本人は、ずっとコンバートの時期を探っている節があった。 東福岡高時代の恩師である谷崎重幸氏(現法大監督)らが「布巻のベストポジションはフランカー」と話すのも知っていたようだし、何より「超高校級」と謳われた頃からこう考えていたのだ。 「身体を活かしたプレー(豪快な突破など)は、上のレベルでは通じなくなるだろうな」 大学入学後の2年間は、センターとしてのプライドも捨て切れなかった。課題のスピード強化に力を入れ、「日本一のチームになる予定なので、それにふさわしいセンターになる」と話したこともある。人は矛盾を抱える生き物だ。自分がフランカーに向いていると感じつつ、大好きなセンターでのジャパン入りを狙っていたのだ(事実、転向後も「いまでも布巻はセンターをやりたいはずだ」と語った関係者もいる)。コンバートへ踏み切ったのは、大学3年のシーズン始動前だった。 地面上のボール争奪戦なら、世界レベルのラグビーでは小柄とされる178センチの身長がハンデにならないだろう。むしろ、セールスポイントの体幹の強さと手先の器用さをより活かせるはずだ…。5月下旬、転向の噂を聞きつけた記者に、布巻はそうした意図を説明した。 「自分を冷静に見ると、サイズやスピードがあるわけじゃない。でもフランカーなら、逆に、このサイズを活かせる」 折しも同時期、日本代表のセンターにはニュージーランド出身のマレ・サウらが加わり、ハイレベルなポジション争いが繰り広げられそうだった。かたやフランカーは、外国人を中心に力のあるメンバーが揃ってはいたが、いずれもサイズとスピードを活かした突破役ばかり。地面上でのボール争奪を担う脇役は、「該当者なし」といった趣もあった。 実際、エディー・ジョーンズヘッドコーチは「いまの日本にオープンサイドフランカーはいません。それを他の全員でカバーしています」と話していた。フランカーでもとりわけ「低さ」が必要なオープンサイドフランカーは、実はジャパン入りへの「穴場」でもあるのだ。