新生・早稲田ラグビーの秘密兵器!
そうした事情を把握してか、布巻はチームにコンバートの意思を告げたのである。かたや後藤禎和監督は、選手個々のチャレンジを応援しながらチームを勝たせたいと考える指導者だ。現に今夏、日本代表のフルバック藤田慶和のニュージーランド留学を「そこに挑戦できる選手だから」と容認している。代表入りを狙う3年生の要望も、すんなり受け入れられたようだ。 「派手」なセンターから「地味」なフランカーへの転向は、概ね順調だった。春先の布巻は、前年度に怪我をした右ひざのリハビリとフィジカルの強化に注力。6月から練習試合に出始め、強烈なタックルを連発した。高校時代は80キロ台後半だった体重を「94キロ」に増やし、肩と背中をエイリアンのように隆起させていた。「現物」に接した後藤監督は、「守備局面での強さがある。文句なし」と太鼓判を押した。 早大には比較的小柄な選手が揃う。そのため素早く守備ラインを敷いてタックルし続け、手数の少ない攻めで僅差の勝利を狙うのだ。大学選手権4連覇中の帝京大が仕掛ける力強い肉弾戦を、耐えて、耐え抜いて勝利をもぎ取りたい。 身体が強くて球を奪えるフランカーが接点で抗えば、味方の守備網形成の時間が稼げる。結果、早大は自分たちのスタイルを貫きやすくなるだろう。そう。あくまで自分の将来のためにコンバートした布巻だが、昨季4強のチームが王座を狙う際のキーパーソンでもあるのだ。 課題もある。長野・菅平の夏合宿での「フランカー布巻」を視察した東芝・和田賢一監督は語る。 「局面、局面ではすごい働きをする。ただ、倒れたらすぐに起き上がるとか、ポイント(ボール争奪局面)に最短距離で走るといった動きを身に付けるには、もう少し経験が必要かも知れないね」 常に接点から接点への移動を強いられるフランカーは、「常に中継画面に背中が映る人」であらねばならない。後ろでパスを待つセンターをしてきた布巻がその癖を得るには、もう少し時間が必要なのだろう。 事実、本人も、「まだ余裕がない」と話していた。グラウンド全体を見渡してボールの奪えそうなポイントを探したり、そのポイントへの最短距離のルートを見つけたりする「余裕」は、いまの布巻が最も欲する感性だった。 「もちろん、その場その場では一生懸命になるんですけど、それと同時に余裕を身に付けたら(グラウンドの)全体が見える。そうすれば、もっと他のことにも目を向けられる。もちろん、余裕を身に付けるにはスキル、力が必要。余裕がないのは、相手を圧倒できていないからだと思うので。心の余裕、身に付けたいと思います」 最大のターゲットは、ジャパンのジャージだ。「主役」から「脇役」となって間もない布巻は、目標達成のためのアピールをどこまでできるだろうか。まずは9月15日開幕の関東大学対抗戦Aで「余裕」を得るのに必要な「経験」を積みたい。 (文責・向風見也/ラグビーライター/写真・長尾亜紀)