【毎日書評】脳の進化にも影響が!睡眠研究者がわかりやすく伝える「睡眠メカニズム」最前線
睡眠対策の遅れは測定の難しさにあった
なお、こうした施策の方針は、2008年に大きく変わったようです。戦後の日本は栄養が足りない人に向けて「栄養をしっかり摂って健康な体をつくりましょう」と健康対策を進めてきたわけですが、2000年代になると栄養の摂りすぎが問題化。 そのため「体づくりのために運動は引き続き重要だが、栄養型はよくないので改善しましょう」と施策もシフトしたということ。そのような動きのなかで特定健診(メタボ検診)が実施されるようになったのです。 このように健康については、栄養、食事、運動といった活動を推進するかたちで対策がとられてきたわけです。 一般的に健康では、栄養(食事)、運動、休養(睡眠)が重要な3本柱だと考えられており、栄養(食事)や運動への施策は積極的に行われてきたものの、休養、とくに睡眠については、日本では栄養(食事)や運動にくらべて取り組みが遅れていたといいます。 それでも1994年には休養についての「健康づくりのための休養指針」が出され、2003年に「健康づくりのための睡眠指針」と名称が変わって、ほぼ10年ごとの改訂がされています。 2003年には、「快適な睡眠のための7箇条」が発表され、2014年には「睡眠12箇条」というのが出されています。今度の2024年の指針改訂では、睡眠衛生指導がメインになっています。(206ページより) このように睡眠について具体的な社会実装が遅れがちになっていたのは、休養や睡眠を簡便に、正確に測定して指導することに技術的な困難があったから。 また、意識がある覚醒時の活動である運動や食事と違い、睡眠は意識がない状態での活動なので、客観的な測定に難しさがあったことも影響しているようです。(205ページより)
ウェアラブルデバイスで正確な測定を
技術的な困難があった睡眠の測定も2010年代から進歩し、とくに最近はウェアラブルデバイスを使った測定が進んでいるといいます。 「アップルウォッチ」に代表される腕時計型のウェアラブルデバイスのメリットは、常時、気軽に身につけられること。センシング技術やデータ解析技術の向上もあって、個人の健康管理に活用されるようになってきているわけです。 そんななか、著者らは睡眠のデータ検出と解析に特化した「睡眠覚醒判定アルゴリズム」(ACCEL:アクセル)の開発を進めたそう。アルゴリズムの開発が進んだ2020年にイギリスのビッグデータを使って、10万人の睡眠パターンを解析/分類してみたのだといいます。 その結果として見えてきたのは、非常に長く寝ている人、非常に短く寝ている人、一般的な24時間周期とは異なるサイクルを続けている人、夜型の人、不眠症気味の人、極端に睡眠が分断されている人など16のパターン。そして、そういった研究成果に基づいた「睡眠検診」を提唱する活動を2020年ごろから実施することになったそうです。 われわれのこの技術に関しては、独占ライセンスを付与して、ACCELStars(アクセルスターズ)社を起業しています。睡眠測定サービスを提供する会社という位置付けです。(208ページより) アクセルスターズ社のウェアラブルデバイス「ACCEL」は、感度97.2パーセント、特異度82.2パーセントと世界最高精度を達成。こうした睡眠検診を含めた「睡眠医療のエコシステム」は将来的に、私たちの睡眠のあり方を改善してくれるかもしれません。(207ページより) 本書を通じて睡眠の新常識を知り、それらに基づいて睡眠を捉えなおしてみれば、充分な睡眠を確保しながら日常生活を改善できそう。少なくとも、睡眠についてお悩みの方には必読の一冊であるといえるでしょう。 >>Kindle unlimited、2万冊以上が楽しめる読み放題を体験! 「毎日書評」をもっと読む>> 「毎日書評」をVoicyで聞く>> Source: 文春新書
印南敦史