日本の「財政」は危機的ではない。財務省がまとめた国の財政状況“約702兆円の債務超過”は本当か
豊かな老後を過ごすために、シニア世代にとって今もっとも知りたくて役立つ「経済学」。 財政の仕組み、税金、保険、年金、仮想通貨、家の購入など、いまさら人には聞けない私たちの身の回りで起きている経済の基礎知識を学び直してほしいと数量政策学者・元内閣官房参与の髙橋洋一さんは言う。 本記事は『60歳からの知っておくべき経済学』の一部を再編集してお送りする。
「国債」の仕組み
緊縮増税派は、国債の発行により借金が膨らみすぎて、財政が危機的だと主張しているが、事実ではない。それを理解するためにも、まずは国債について解説しておこう。 「国債とは何か?」と聞かれれば、多くの人が「国の借金」とか「政府の借金」と答えるだろう。あながち間違いではないが、借金=悪というイメージから「国債の発行は減らすべきだ」と主張する人もいる。 しかし、個人の借金とは異なり、政府の借金はむしろ必要な場合がある。それを理解するには、政府を企業に例えてみるといい。
「国債」は国家運営に不可欠な存在
一部の企業は「借金ゼロ」をアピールしているが、通常は事業を拡大するために融資を受けて、設備や人材などの投資に充てる。それによって、新規プロジェクトや取引が増えていき、企業は成長していくのだ。企業の設備投資は、国の景気動向を示す大切な指標の一つで、もし設備投資が減少しているなら、それは経済が低迷する兆候といえる。 同様に、国債も国家運営に不可欠な資金だ。政府の主な収入源は、税収(所得税、法人税、消費税など)だが、予算不足の際は国債を発行してその分を補う。 国が発行した国債は、銀行や信用金庫、証券会社などの民間金融機関が買い取る。例えば、国の必要な予算が10兆円不足していた場合、一気にその額を調達するのは難しいため、毎週国債を発行して1年かけて調達していく。 国債の取引は財務省が行い、民間金融機関に「利率」「発行額」「償還期限」の情報を伝えて、入札で売買が行われる。これらの国債はその後、民間金融機関から日銀が時価で買い取る流れとなる。