ホンダの「救済統合」否定で日産が問われる覚悟、チラつくホンハイの影、ルノーが握る「決定権」
構造改革と経営統合で社員や取引先に負担を強いるのは確実。まず内田社長はじめ経営幹部の責任を明確化するのが先決だろう。そうでなければステークホルダーの理解は得られない。 統合の行方はまだ波乱含みだ。今回の基本合意の背後には、日産への出資に関心を示しているとされる台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の影がある。「われわれに対するアプローチの事実はいっさいない。何も事実がない中でコメントできない」(内田社長)、「報道を読んで知っているくらい」(三部社長)と、両社長はこの噂を否定した。
だが、ホンハイが日産に対して出資の提案を行ったと複数の関係者が証言している。台湾メディアはホンハイの幹部が日産株の取得交渉のために日産の筆頭株主であるフランスのルノーと交渉していると報じている。 長く43.4%の日産株を保有していたルノーは、現在も信託分を含めて39.1%の日産株を持っており、経営統合の行方を左右できる立場だ。そのルノーは23日夜に「ルノーグループとそのステークホルダーの最善の利益に基づき、あらゆる選択肢を検討していく」との声明を出した。信託している22.8%分はルノーの意思で売却できる。日産は優先交渉権を持つが、条件が合わなければ他社に売られる可能性がある。
日産とホンダは基本合意の有効期間中に、第三者との競合取引を禁じる独占交渉権を設定している。解約手数料は1000億円。両社トップはホンハイとの関係を否定するが、第三者の存在を意識した動きとも見て取れる。 ■ゴーン元会長「成功するとは思えない」 会見の2時間前に、逃亡先のレバノンからオンライン会見を行ったカルロス・ゴーン日産元会長は、「両社の事業は至る所に重複がある。この経営統合が実現しても成功するとは思えない」「政治的には理解できる。経済産業省が日産を失いたくないのだろう」と指摘した。
確かに経営統合の実現も、その成功も見通せない。とはいえ、電動化や知能化など自動車産業が変革期を迎える中、ホンダ、日産、三菱とも個社で将来を描くことは難しい。さまざまなハードルを乗り越えて世紀の経営統合を成就させることはできるのか。
秦 卓弥 :東洋経済 記者