前時代的な指導や上下関係…先細る伝統行事の現実は、地域社会の在り方そのものへの問いを突き付ける〈県無形民俗文化財15%休止〉
担い手不足に新型コロナウイルスの流行が加わって、鹿児島県内の伝統行事や芸能の継続が難しくなっている。一方、従来にとらわれない形を模索したり、有識者や保存会を集めた委員会を立ち上げたりと、具体的な動きが出始めている。 【併せて読みたい】担い手不足にコロナが追い打ち 県内の無形民俗文化財 15%が休止状態 専門家「自治体は文化財に指定した意義の再評価を」 南日本新聞43市町村アンケート
「チャンチャコ」「ドンドン」-。いちき串木野市の大里地区で国の重要無形民俗文化財「市来の七夕踊」が始まった。巨大な虎の張り子が観客を沸かせた後、9人の踊り手が軽快な太鼓踊りを披露した。 朝鮮出兵での島津義弘の活躍をたたえ、約400年続くとされる。ただ、近年は担い手不足で存続の危機にあった。 コロナ禍で2020、21年は中止。保存会は22年の開催を最後に解散を決めた。この窮地に20~50代の地元有志が集い「伝承会」を発足。保存会から道具類を受け継いで何とか残った。 取り組みの一つが演目の簡素化だ。かつては一日かけて出し物が行われたが、今年は約1時間、太鼓踊りと虎のみを披露した。伝承会の吉村正直会長(54)は「歴史ある行事を途絶えさせたくなかった。それには時代に合わせ大胆に変えることも選択肢」と話す。 ■□■ 7月、さつま町では郷土芸能存続について保存会や有識者が意見を交わす「郷土芸能伝承検討委員会」(会長・小島摩文鹿児島純心大教授)が発足した。委員は町内の郷土芸能団体の代表者ら16人。初会合で「残したいが、継承は難しい」との声が相次いだ。
青壮年が舞う県指定「鷹踊」を継承する同町求名の下手集落では、踊り手確保に貢献していた地元の求名小学校が3月に閉校。集落による維持は難しく、地元から県指定の返上といった声もあると報告があった。 検討委は今後、行政に求める具体的な支援、地域外からの参加の是非について意見集約する。小島さんは「一度休んで“慣性”が失われると、動かすには相当な力がいる。残された時間は少ない」と力を込める。 ■□■ 「集落外から担い手募集」「参加しやすい開催日に変更」。南日本新聞が実施した自治体アンケートには、存続に向けた取り組みが寄せられた。一方、「地区外からの参加を望まない場合も多い」、「合同開催も視野に入れるが、個別の芸能が失われる」との声も。伝統を変えてまで続けることへの抵抗も垣間見える。 鹿児島民俗学会の松原武実会長は「対策は単一ではなく、地域の事情に合わせることが重要」とし、「若い人がいても、前時代的な指導や上下関係が参加をためらわせていることもある。危機を乗り越えようとするなら、地域も意識を変えなければ」と強調する。小島さんも「何百年続いた行事が時代の中で変化するのは当然。最終的な姿は地元の意思で決めるのが望ましい」と語る。
松原さん、小島さんが共に強く主張するのが記録保存だ。「家庭にある古い写真やホームビデオの映像なども貴重な資料。県全体で収集に向けたシステム作りを」と呼びかけた。
南日本新聞 | 鹿児島
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