〈シリア・アサド政権崩壊の勝者と敗者は?〉混迷深まる中東で2025年、各国どう動くか
シリアのアサド独裁政権の突然の崩壊は戦火にまみれた2024年の中東を象徴する出来事となったが、新年も地域の平和と安定は程遠いものになりそう。その台風の目は1月20日に就任するトランプ米大統領だ。シリアでは暫定政府が武装組織を国軍に統合するなど新たな歩みを始めたが、トランプ氏は「シリアを切り捨てる」考えとみられ、混迷が深まるのは必至だ。
厄介事には手を染めない
米紙などの報道によると、トランプ次期政権はシリアへの関わりから手を引く公算が高い。米国は現在、過激派イスラム国(IS)の台頭を阻止し、ISから同国の石油資源を守るためとの理由で、約2000人の部隊をシリア国内に駐留させ、折に触れてISの拠点を爆撃するなど作戦を展開している。 駐留軍のもう一つの狙いはアサド政権を支援していたイラン革命防衛隊の動向を監視するためだ。しかし、イランはアサド政権を見限り、部隊を本国に撤収させており、監視任務は棚上げ状態になっている。トランプ氏はかつて、テロとの戦いでISを掃討した後、米軍を撤退させようとしたが、国防総省の反対で900人の残留を渋々認めた経緯がある。 部隊はバイデン政権で2000人程度にまで増強されているが、トランプ氏は大統領就任直後に駐留部隊の撤退を命じる可能性が高い。「トランプはとにかく、儲けにならない中東やアフリカへの関与を無駄だと考えている。シリアやアフガニスタンはその最たるものだ。厄介事に手を染めて泥沼に引きずり込まれることを極度に恐れている」(米専門家)。 トランプ氏は一期目当時、シリアからの完全撤退を強く要求したが、ミリー元統合参謀本部議長ら軍部に反対され、駐留には同意せざるを得なかった。同氏は国防総省に強い不満を残した。 今回は「すぐに撤退を実行させるだろう」(同)という。だが、大きな戦略的ミスだとの批判が出るのは間違いない。
トランプ氏はサウジアラビアなど石油豊富なペルシャ湾との関係を重視しがちだ。だが、近視眼的だとする向きは多い。 シリアは地政学的に中東の要衝であり、ここが安定しないと中東全体が不安定になってしまうからだ。シリアの隣国のイラクにも約2500人の米軍が駐留しているが、2026年までには撤退する計画だ。シリアの部隊も撤退すれば、「力の空白」が拡大することになる。 シリア暫定政府は国連や米国からテロ組織に指定されている「シリア解放機構」(HTS)のジャウラニ指導者が権力を握っているが、安定した民主主義国家を樹立できるかは不透明。米部隊が撤退すれば、ISの台頭や内紛の歯止めを失い、混迷が深まる恐れが強い。