スイスの元プライベートバンカーが「2023年クレディスイス危機」で学んだこと
劣後債の中ではもっとも利回りとリスクが高い債券種類であるCoCo債。CoCo債の最大のリスクは、自己資本の中でもっとも資本性が高い資本であるCET1比率下落による元本削減です。利回り水準は高いものの、最低投資単位の大きさやリスクから、扱うことのできる投資家は限られています。本記事では、世古口俊介氏の著書『富裕層のための米ドル債券投資戦略』(総合法令出版)より一部を抜粋し、CoCo債の元本が全額削減されたクレディスイスの事例とともに、CoCo債保有のリスクについて解説します。
クレディスイス、CoCo債の元本削減
実際にCoCo債が元本削減に至った事例があります。 2023年にクレディスイス(以下CS)が発行するCoCo債の元本が全額削減されるという事例がありました。 CSは数々の事業失敗でかねてから業績悪化が懸念されていました。そこに2023年のアメリカ地銀破綻の金融不安が重なって、CSに取り付け騒ぎが起こり、最終的には同じスイス最大手銀行のUBSとの合併で騒ぎには終止符が打たれました。 CS自体は破綻せず、CET1も大幅に下がらなかったにもかかわらず、CSのCoCo債は元本削減になったのです。 実は合併の過程でCSは政府からの流動性支援を受けており、その政府の判断が「規制当局者が存続の可能性がないと判断した場合」というCSのCoCo債の元本削減条項に該当したということで実際に元本の全額削減は実行されました。 CoCo債の保有者は全額損失にも関わらず株式の価値は半減程度で株主は守られたなど腑に落ちない事例でしたが、CSが発行するCoCo債の資料には確かに記載されているリスクではありました。 CSの事例から「規制当局の判断で元本削減」など表現が曖昧なCoCo債には投資しないほうがいいと学びました。
6%から7%の高利回りは、2024年時点でCoCo債以外達成できない!?
CoCo債に投資したほうがいい人は6%から7%の高利回りを得たいかつリスク許容度がかなり高い人でしょう。2024年時点で6%から7%はCoCo債くらいでしか達成できない利回り水準です。債券投資では野心的なこの水準の利回りを得たい場合はもうCoCo債に投資するしかないと思います。 あとはそれを受け入れられるリスク許容度があるかです。 CoCo債に投資したほうがいい人 1つは資産背景が数億円以上あることだと思います。CoCo債の最低投資単位は20万米ドルが一般的です。1米ドル150円だとすると3000万円なので、資産が6億円あってようやく1つのCoCo債の対資産比率が5%になります。 もう1つはCoCo債の元本削減リスクなどを正確に理解し、金融不安時の値下がりなどにも耐えられる精神的なストレスへの耐性も必要になるかと思います。 世古口 俊介 株式会社ウェルス・パートナー 代表取締役 2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱東京UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレー証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベート・バンキング本部の立ち上げに参画し同社の成長に貢献し、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。 資産数億円以上の富裕層を対象に資産運用コンサルティングを行う。株式や債券、不動産などすべての資産クラスを扱い資産全体を最適化。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1.4万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」を通して日本の富裕層に資産運用の情報を発信している。
世古口 俊介