時計愛好家を魅了し続ける「5大ブランド」 歴史と伝統に技術があわさった奥深き世界
またかつてのキャビノティエが、顧客のオーダーに合わせて時計を制作していたという歴史を継承するため、2006年に「アトリエ・キャビノティエ」部門を発足させ、顧客のオーダーに応じて一点ものの時計を製造している。今年は、なんと63もの機能を搭載した世界で最も複雑な時計「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」を発表。技術や歴史、伝統を尊ぶ姿勢が高く評価されている。 ■パリを熱狂させた天才時計師を起源とする「ブレゲ」
歴史という点では、ブレゲも負けてはいない。創業は1775年。スイスで生まれ、パリで活躍した天才時計師のアブラアン=ルイ・ブレゲ(以下、初代ブレゲ)が、セーヌ川のシテ島に立ち上げた工房がその原点となる。 今でこそ高級時計=スイスだが、18世紀は大国フランスこそが時計産業の中心地であり、最先端の科学技術としてだけでなく、人々の目を楽しませる芸術品としても、高級時計が王侯貴族の中で愛されてきた。 初代ブレゲは、自動巻き機構や耐震装置、高精度機構トゥールビヨン、ギヨシェ彫りやブレゲ数字など、現代も使用される多くの技術やデザインを考案した人物であり、フランスの時計師の中でもずば抜けた存在であった。
そしてフランス王家にその才能を高く評価され、王妃マリー・アントワネットのために美しい懐中時計を制作している。またフランス革命後は、皇帝ナポレオンの妹で後にナポリ王妃となるカロリーヌ・ミュラのためにブレスレット式の時計を制作。1812年に納めたこの時計が、世界初の腕時計とされる。さらにはフランス海軍御用達時計師としてマリンクロノメーターの開発を行うなど、さまざまな功績が残されている。 現在のブレゲは、製造拠点をスイスに構えているが、初代から数えて7代目となるエマニュエル・ブレゲが副社長を務めており、初代が残した技術や機構を継承している。
■家族経営で時計文化を守る「パテック フィリップ」 パテック フィリップも、伝統の継承を強く意識している。1839年に創業した同社は、1851年にロンドンで開催された第1回万国博覧会にて金メダルを獲得し、さらに英国ヴィクトリア女王がペンダント・ウォッチを購入したことで、一気に王侯貴族の中で知られた存在となる。 数多くのすばらしい時計を作ってきたが、とくに有名なのがアメリカ人実業家のジェームズ・ウォード・パッカードとヘンリー・グレーブス・ジュニアが、競うようにパテック フィリップに依頼した複雑な懐中時計たち。中でもグレーブスが注文し、1932年に完成した超複雑タイムピース「グレーブス・ウォッチ」は、2014年に行われたサザビーズのオークションで、2323万7000スイスフラン(約28億円)で落札され、時計の最高落札価格を更新した。