時計愛好家を魅了し続ける「5大ブランド」 歴史と伝統に技術があわさった奥深き世界
さらには1972年に世界初のラグジュアリースポーツウォッチ「ロイヤル オーク」を生み出し、2019年には立体構造ケースの「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」を発表するなど、攻めのウォッチメイキングを行っている。 歴史ある時計ブランドでありながら、哲学がぶれることなくことなく前進できるのは、現在も創業者一族が経営に携わっているからだ。しかしその一方で、積極的に外部の意見を取り入れ、今年の1月に就任した新CEOは一般消費財企業でキャリアを重ねたイラリア・レスタ。初の女性CEOがこの名門をどう進化させるのか……。そういう観点でも注目されている。
■激動の歴史から蘇ったドイツの名門「A.ランゲ&ゾーネ」 ここまで紹介した4ブランドとはまったく異なる歴史を歩んできたのが、ドイツのA.ランゲ&ゾーネだ。創業は1845年。ザクセン王国の宮廷時計師に学んだフェルディナント・アドルフ・ランゲは、1845年に首都ドレスデン近郊の街グラスヒュッテに弟子と共に移住し、時計産業を興した。 時計の規格を定め、制作するパーツを弟子たちの工房に割り振り、そのパーツを本社で組み立てるという、“街をひとつの工場に見立てる”製造プロセスによって高品質の時計を制作。大きなプレートでパーツをがっちり押さえる3/4プレートやテンプ受けの彫金など、機能性と美観の両面で個性を表現し、A.ランゲ&ゾーネとグラスヒュッテの時計産業の名声は、スイス高級時計に匹敵するほどだった。
しかし第2次世界大戦時に空爆を受けて社屋は崩壊し、冷戦時は東独政府によって国営化され、ブランドは休眠状態となってしまう。それは艱難辛苦の時代だったが、国営の時計企業として時計製造を継続していたことで、技術や伝統、ノウハウは守られた。そのため、東西ドイツの再統合を経て1990年にA.ランゲ&ゾーネは復興すると、1994年には復刻第1弾として「ランゲ1」など4モデルを発表。華々しく再出発を果たした。
A.ランゲ&ゾーネの時計は、徹底的な手仕事から生まれるクラシカルな味わいを大切にしており、ムーブメントには精密な仕上げを施している。そこから生まれる質実剛健な存在感は、スイス時計にはない魅力となっている。 5大時計ブランドは、どれもが歴史と伝統があり、時計は魅力的だ。もちろん、ほかにもすすばらしい歴史や文化を持つ時計ブランドは多数存在しているが、そういった知見を広げることで、奥深き時計の世界にどんどんハマってくのだ
篠田 哲生 :時計ジャーナリスト