Facebookの「インスタント記事」でニュースの読み方はどう変わる?
SNSで読者の行動が完結する動き
昨今、海外のメディア業界では、「分散型メディア」「分散型コンテンツ」という言葉がたびたび話題となります。自社のウェブサイトに訪問してもらうのではなく、流通を担っているSNSやメッセージアプリ内で読者の行動が完結するような動きが強まっているのです。 読者に来てもらうのではなく、読者のいるところに届けていく――。ソーシャル時代の流通にはこのような考え方が前提となっています。PCからウェブサイトに訪問すれば、ロゴやデザイン、記事の切り口など視覚的に認知できますが、スマホからの訪問ではパッケージではなく、URL単位での情報消費となるため、記事は読まれても、メディアのブランドを認知してもらうことは困難です。 この点をどのように乗り越えるのかも、インスタント記事を利用する際の大きな論点です。ブランドを訴求したいながら、インスタント記事とは距離を置き、イベントを開催したり、紙媒体を発行したり、リアルでの施策を打っていくことが重要になるでしょう。
始まる“ニュース争奪戦”
ここまでインスタント記事の特徴や影響を解説してきましたが、海外では昨年からプラットフォーム企業によるニュース争奪戦がはじまっています。おそらく、毎日アプリやサービスを使ってもらう口実として、ニュースは最適な素材なのでしょう。多くの人にニュースを届けたいメディアと、滞在時間を伸ばしたいプラットフォームの思惑が重なるわけです。 10~20代に人気のメッセージアプリ「Snapchat」は「Discover」というニュースコーナーを立ち上げ、Twitterはニュースタブやキュレーション機能を追加し、AppleはiOS 9から公式ニュースアプリ「News」を開始、Googleはウェブページの高速読み込みを狙いとする「Accelerated Mobile Pages(AMP)」を提供しています。 国内では唯一LINEが「LINEアカウントメディア プラットフォーム」と銘打ち、メディアにLINEの公式アカウントを用いたニュース配信機能を開放しました。ただ、日本と米国では状況が異なります。それはプラットフォーム企業の数です。日本ではプレイヤーの数が限られるため、インスタント記事をはじめとするプラットフォームへの依存度が高まる 可能性があります。 そうなってしまうと、ウェブサイトよりもプラットフォーム内での閲覧が多くなり、プラットフォーム側の規約・仕様(変更)の影響を強く受けることになるでしょう。最悪のケースを想定すれば、将来的にプラットフォーム企業が倒産した場合、流通をどこに担ってもらうのか。その自体の深刻さは想像するまでもありません。それでも、スマホがあるかぎりはプラットフォーム全盛の時代は続くと思われるため、メリットにせよデメリットにせよ、まずは国内メディアのインスタント記事の配信を見てからの判断となりそうです。
■佐藤慶一(さとう・けいいち) 編集者。1990年生まれ。新潟県佐渡島出身。出版社でWebメディアの編集をしながら、海外メディアの最新動向を伝えるブログ「メディアの輪郭」を運営中。