だから「トランプ」は支持される アメリカ「市場至上主義」とその限界
地球の上を“お金の川”が流れている
藤吉:前回、1989年に「ベルリンの壁崩壊」と「天安門事件」という歴史的なビックイベントが起きているのは、偶然ではないというお話がありました。つまり人々の経済活動や日々の営みのエネルギーが政治を動かし、歴史を動かしていくんだ、と。 阿部:僕はそう思います。だから今、ロシアがウクライナで戦争を続けるのも、今はその方が国家として経済的な恩恵が大きいということなんだろうな、と受け止めています。 一方で、戦争によって傷んでいる大衆と支配者との乖離は、どんどん広がっていく。これはどこかで埋めなきゃいけない。ずっとは続けられないんです。 その歪みを戻そうとする動きの先に見えてくる新しい世界のかたちがどうなるのか。投資家としてはそこを考えています。 藤吉:以前、阿部さんが中東に行ったときに「空から地球を見たら、“お金の川”が流れているのが見える」と思い至ったそうですね。 阿部:中東を訪ねた際にハイウェイに乗ったんですね。そうすると、昔は砂漠しかなかったような場所に、こんな立派な道ができている。経済がものすごい速さで発展していることを実感したんです。「あ、お金の川がここ中東に流れてきてるんだな」と。 それから僕は、“お金の川”が今、どこにどんなふうに流れているのか、俯瞰的な視点で見定めるようにしています。そうすると、今まさに川の流れが大きく変わる転換期なんじゃないかと気づく。 藤吉:「富の偏在」というのは、その川の流れがどこかで歪になっている状態であるともいえますね。これを直そうとするとき、また歴史上の転換点が起きるとしたら、そのきっかけは、例えば、AIが大きな変化をもたらす、とか。 阿部:AIかはわからないけど、何かしらのテクノロジーだと思います。環境なのか、宇宙なのか、とにかく今までのボトルネックをブレイクスルーするような新しいデバイスやテクノロジーが生まれてくるはずです。 そのときに、長引くデフレ時代にも我慢して「モノづくり」のための人と設備を維持し続けた日本が果たす役割は大きい──この話はこれまでの連載でもさんざんしてきたので、今日は割愛します(笑)。 藤吉:「市場至上主義のメカニズム」に替わる新たな仕組みとは、あえて予測するならば、どういった方向性が考えられるのでしょうか。 阿部:アメリカの次の大統領が誰になろうと、無視できない大きなトレンドはありますよね。一番わかりやすいのは、環境問題や気候変動の問題です。 フランスの経済学者、ダニエル・コーエンが著作において「温暖化こそ21世紀最大のリスク」と主張している通り、人類にとって避けては通れない「壁」が目の前に既にある。これをどうにか越えようとする過程で、人類としての新しい動きが出てくるんじゃないですかね。それはもう、トランプさんどうこうという次元の話じゃない。人類として生存をかけて、この「壁」と向き合わないといけない時期にあるということです。
Forbes JAPAN 編集部