だから「トランプ」は支持される アメリカ「市場至上主義」とその限界
今年11月のアメリカ大統領選を「市場」の側からどう注目すべきか? 「投資の巨人」ウォーレン・バフェットとジョージ・ソロスの薫陶を受けた阿部修平(投信投資顧問会社 スパークス・アセット・マネジメント株式会社代表)が、その哲学を語り尽くすシリーズ連載、第5回。 藤吉:目下、アメリカ大統領選が混迷を極めていますが、どういう結果になるにせよ、その帰趨が今後の日本にも大きな影響を及ぼすことは間違いありません。阿部さんは1980年代にニューヨークに赴任されて以来、アメリカという国を見てこられたわけですが、今のアメリカをどうご覧になっているんでしょうか。 阿部:まず僕にとってアメリカは憧れの対象でした。初めてアメリカの土を踏んだのは1977年、上智大学の4年生のときで、ボストンの大学に留学しました。それから大学院に進んでMBAを取得後、日本に戻って野村證券に就職しました。米国野村証券のアナリストとしてニューヨーク勤務となったのが1982年です。そこで3年働いてから独立しました。 藤吉:ジョージ・ソロスさんの元で日本株を運用するファンドマネージャーを務められたのはその頃ですね。 阿部:そう。ただソロスさんのところは3年働いたところで、「シュー、君は次はどうするんだ?」みたいなソフトな言い方でクビになるんです(笑)。彼は「次の仕事が必要なら探してやるよ」と言ってくれたんですが、僕は日本に帰ることにしたんです。 藤吉:それはどういう心境だったんですか? 阿部:やっぱりニューヨークで日本人1人でやっていくのは、なかなか孤独だったんですよね。それで日本で仲間と一緒に働きたいなと思ったんです。 ■“自由と公正”を重んじるアメリカ人 阿部:ですから僕がアメリカ人──ほぼウォールストリートの人ですが──と付き合い、アメリカという国を中から観察できたのは主に1980年代です。その当時、僕が最もよく感じたのは「アメリカ人というのは、自由や公正という概念を非常に重んじるな」ということでした。 ここで言う「公正」というのは、「実力のある人が家柄などに関係なく、その実力を発揮できる舞台が用意されている」という意味で、その最たる例が市場です。 マーケットという場所はアダム・スミスが言う通り「神の見えざる手」によって統治されているのだから、人為的な介入をすべきではない、という理屈ですね。マーケットで評価されることが強さの証左であり、成功への近道であるという教義(ドグマ)が出来上がっていた。この教義の下、アメリカはずっと、世界の覇権を握ってきたとも言えます。 藤吉:以前、この連載で「各国のGDPが世界全体のGDPに占める割合がこの30年でどう変化してきたか」を示したグラフを紹介していただきましたが、トップは常にアメリカでした。 阿部:そうなんですよ。この30年で日本が凋落したり、中国が台頭したりと各国浮き沈みがある中で、唯一アメリカだけが30年前も今も変わることなく、世界のGDPの25~26%をずっと維持し続けています。これだけ世界が激変する中で、アメリカだけが勝ち続けている理由は「公正な市場における強さこそが正義」という「市場至上主義」とでも言うべきドグマによるところが大きかったと言えます。