「娘たちを最後の犠牲者にしなければならない」 ガザ出身の医師が唱える平和と共存
■ジェノサイドの共犯に 「私の3人の娘たちと姪がイスラエル軍の砲撃で殺されたのは『10月7日』のずっと前の2009年1月16日です。昨年10月30日には私の姪や甥(おい)が殺害され、2024年になって私の妹たちが殺されました。悲劇は10月7日の前にもあり、その後も続いているのです」 アブラエーシュ医師は「娘たちを最後の犠牲者にしなければならない。私が平和を呼びかけるのは、娘たちの死を無駄にしたくないから」と語る。 医師は平和と共存を唱える一方で、イスラエルによるガザ市民の無差別な殺戮を「ジェノサイド(大量虐殺)だ」と強い口調で非難する。世界的にはイスラエルのガザ攻撃に反対する市民のデモが広がっているが、米国や英仏独など欧州の主要国政府や日本はイスラエル擁護の立場を続けている。 「米欧の政府が政治的に動いてイスラエルを擁護していることで、国際法や人権が無視されている。イスラエルを支援することは、ジェノサイドの共犯になることです」 医師は「ガザで起こっていることはガザにとどまらず、世界の市民社会を破壊する」と問題の重大性を語る。医者らしく、ガザ問題に対する政府や市民の取り組みをコロナ禍にたとえる。 「コロナの大流行は世界に影響を与えるため、世界中が結束してコロナ対策にあたりました。いまガザで起こっていることを放置すれば、国際法や人権が揺らぎ、世界全体に影響します。ガザの殺戮を止めるために世界中が結束しなければならないのです」 (中東ジャーナリスト・川上泰徳) ※AERA 2024年11月4日号
川上泰徳