「広い宇宙で、ひとつの星でありたいと願うだけ」大学生が書いた“マイノリティのささやかな願い”
“立方体”の社会 どこにもない居場所
生きづらい、生きづらい、生きづらい。そう思いながらずっとずっと、生きてきました。はやく誰か私に名前を付けて、一括りに束ねてほしいと何度も思いました。LGBTという言葉が一般化してからは、周りの大人は、お前はそのどれに属するのか、としきりに尋ねてきました。 セーラー服が嫌だと言えば、学ランを持ってくる大人と向き合うことが、社会と向き合うことが、自分と向き合うことが、自分という存在を全て否定されているようで苦しかった。立方体の社会のどこを探しても、自分の居場所は見つかりませんでした。
一般化されたネットは“生き地獄”のよう
マイノリティが唯一自由に息をできていたネットの世界ですら、今や立方体の中です。マイノリティの住処だったネットは一般化され、誰もが土足で踏み込んでくる生き地獄のようです。多様性を謳う正義感の強い人間に、求めてもいないのに勝手に名前を付けられて勝手に肯定されて、あなたはあなたらしくいていいのよ、という耳触りがいいだけで中身など何もない言葉をかけられて、彼らの妄想する理想の世界観に付き合わされるようになりました。
「ひとつの星でありたい」と願うだけ
私たちは、あなたたちの立方体の中に取り込んでほしいとは思っていません。ただ、その外にある広い宇宙で、それぞれの銀河系の中で、ひとつの星でありたいと願うだけです。立方体を抜け出して、宇宙で星になろうと決めた人たちを、頼んでもいないのに立方体の中の倫理に照らし合わせて否定し、ひとつの星の輝きを消してしまった社会を、どうしても憎んでしまいます。 願わくば、いつか、立方体が破壊されて、囚われていたたくさんの星たちが宇宙に広がって、誰よりも美しく、綺麗に輝いていく未来が訪れますように。 先に星になってしまった人たちと、そこでまた、巡り会えますように。
「今の素直な気持ちを言葉に」
この授業を通じて、多種多様な人々の人生、そして自己表現をする様子に、ドキュメンタリーを通じて触れることができました。人には皆、それぞれの正義があり、信条があり、そのことに自信や誇りがあるように見えました。 私は10代で高校中退や鬱病を経験して、社会に対して言いたいことや鬱屈とした想いは人一倍ありましたが、その思いを言葉にすることや発信することに強い恐怖感があり、今まで素直な自己表現を出来ずにいました。しかし、ドキュメンタリーの中で出会った力強く生きている人々の姿に、私は勇気をもらいました。こんな風に自分の信条に自信を持って、自己表現がしてみたい、その思いが毎週の授業を通じて少しずつ強くなっていきました。そして、最後の授業を終えて、今の素直な気持ちを言葉にしてみようと思ったのです。 長くなってしまいましたが、この文章を通じて、私はひとつ大きな一歩を踏み出せた気持ちでいます。神戸先生、大変貴重な講義をありがとうございました。また、機会があれば色々なお話が聞きたいです。
神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件や関東大震災時の朝鮮人虐殺などを取材して、ラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。近著に、その取材過程を詳述した『ドキュメンタリーの現在 九州で足もとを掘る』(共著、石風社)。