なぜ日本はスコットランドとの死闘を制して8強を決め歴史を塗り替えることができたのか?
白星を手繰り寄せた、FW、BKが一体となっての変幻自在な攻撃。その裏には、トニー・ブラウンアタックコーチが練った計画があった。 松島が「全員が同じページを向いている。疲れていても何をするかの意思統一ができていた」と話すなか、別の選手は「ラッセル、ショートサイド(人数の少ない区画)を守るレイドローをターゲットに」。確かに松島のトライのきっかけも、リーチのラッセルへのコンタクトだった。殊勲の福岡も、スクラムからの1次攻撃でレイドローに仕掛ける場面を作っていた。 司令塔団にたくさんタックルをさせながら、自軍の攻撃陣系に活力を与えた格好だ。 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは「戦術はボールキープすること、スピードをコントロールすること、テリトリー(陣地)を十分に取ること、裏をかくこと、相手にプレッシャーとトラブルを与えること」と説明した。 敗れたタウンゼントヘッドコーチは、敵軍の実相をこう捉えた。 「日本代表は団結している。長い間、一緒にいるのが分かる。自分たちがどういう試合運びをすべきかをわかっている。それは、ハイペースな試合です」 ブラウンコーチのプランが遂行された背景には、今年初めからの半年以上にも及ぶ長期的活動がある。 2月の候補合宿では、この日披露された多彩なパスなどの基礎練習が繰り返された。候補選手が絞られた6月以降は、高強度のセッションが心身を鍛えた。松島の言う「同じページを…」は、集団内部での信頼関係と無縁ではない。 日本ラグビー界に吹いた追い風も、いくらか活用された。2016年以降は、国際リーグのスーパーラグビーへ日本のサンウルブズが参加。同年秋発足のジョセフ体制は2017年以降の同クラブとリンクした。ハイレベルな舞台でタフな身体接触に慣れ、プレースタイルを大人数で共有できた。 ナショナルチーム本体もここ数年、従来以上に強豪国とのテストマッチを行っていた。だからリーチは、歴史を変えられた理由をこう語るのだ。 「一番の理由は(やることを)信じたこと。対戦する相手のレベルが上がったこと、スーパーラグビーの影響がすごく大きいし、コーチングもどんどんよくなってきています」 この夜は接点で球に絡まれたり、向こうの露骨なハイタックル、密集内部でのひじ打ちをベン・オキーフレフリーに見てもらえなかったりと、決して意図通りに戦えたわけではない。 それでも何度かオキーフと対話した田村は「彼(オキーフ)にもプレッシャーはかかっているでしょうし。いい判断をしてもらうように(日本代表側からも)プレッシャーをかけていました」と涼しい顔。 思うに任せぬ事態は、大きく負け越したスーパーラグビーでも経験済み。序盤の連続攻撃、終盤の粘りの防御という練られた強みを活かし、日本ラグビー界を新たな地平へ導いたのだ。 20日の東京スタジアムでの準々決勝では、南アフリカ代表とぶつかる。4年前のイングランド大会では34-32で破った相手でもあるが、W杯開幕前の前哨戦では、日本代表が7-41と敗れている。 藤井雄一郎強化委員長は、今週の段階で「コーチ陣は食ってやろうと分析している」と発言。当時やられた空中戦では、この日の松島がパントを絶妙にキャッチして処理するなど改善の兆しを見せている。簡単な相手ではないが、前大会再現の可能性はある。 右プロップのヴァル アサエリ愛によれば、キャプテンのリーチは、仲間に「今週まずスコットランド代表に勝って、次はベスト4に行こう」と話していたという。 (文責・向風見也/ラグビーライター)