【このニュースって何?】東京・国立市のマンション解体へ → 景観って大切なの?
高さ論争は過去にも
80年代後半から90年代にかけては、新しくつくられる京都駅ビルの高さが論争になりました。当時、平安建都1200年(1994年)の記念事業として古くなっていた京都駅ビルの建て替えが動き出していました。京都市は歴史的な街並みを維持するため、ビルの高さを31メートルまでとしていましたが、市や経済界は著名建築家による高さ制限にしばられないコンペを実施することにしました。そのコンペにより高さ60メートルの案が採用され、制度的にも高さ60メートルが認められました。 しかし、この規制緩和に対して住民や仏教界などは強く反対しました。三方を山に囲まれた低層の街並みが「京都らしさ」であり、高い建物は京都らしさを壊すという主張でした。しかし、市や経済界が反対を押し切り、高さ60メートル、幅470メートルの巨大な駅ビルが97年に完成しました。 京都では現在、京都駅前の京都中央郵便局を高さ約60メートルのビルに建て替える計画があったり都市計画を見直す動きがあったりして、京都らしさの論争が再び起きる可能性があります。 今回マンションの解体が決まった国立市では、過去にも大きな景観論争になった別のマンションの問題がありました。問題が起きたのは、99年です。国立市の大学通りに高さ53メートル、18階建てのマンション建設計画が持ち上がりました。桜やイチョウの並木が美しい大学通りの景観を大切に思う住民たちが反対運動を始めました。建設業者は高さ44メートルの14階建てにするとして、建設に着工し、01年に完成しました。 反対する住民は、建設計画が持ち上がったあとにできた市条例の高さ20メートル制限に違反するとして、マンションの一部撤去などを求めて訴訟を起こしました。一審では、原告住民の景観に対する利益を侵害しているとして、20メートルを超える部分の撤去を業者側に命じました。この訴訟は最高裁にまで持ち込まれ、最高裁は06年、住民たちに景観利益があることを認めましたが、このケースでは住民たちの景観利益が違法に侵害されているとはいえないとして、住民たちの請求を棄却しました。 最終的に住民たちは敗訴しましたが、最高裁が「良好な景観に恵まれた地域に居住する者がその景観を享受する利益は法律上保護される」として景観利益を認めたことは、その後、建設業者などに周囲の景観に配慮するよう促す効果を持ちました。 都市の景観を守る意識は、外国の都市を訪ねた時に感じることがあります。高さ制限だけでなく、建物の形や色についても制限のある都市があります。ヨーロッパの都市で自動販売機をあまり見ないのは、景観のために規制があるからだという説明を受けたことがあります。日本でも街の景観を守る意識は以前より高まっているように感じます。 一方で、古い建物を取り壊し、新しい建物をつくる新陳代謝も必要です。保存と開発は対立しがちですが、どちらも大切なことです。東京では神宮外苑の再開発計画が論争になっています。こうした具体的なケースを調べて、自分の意見をまとめてみませんか。
一色清 ジャーナリスト