2023年度の「農業」倒産77件、年度最多を更新中 コストアップ、人手不足等で新興企業の倒産が目立つ
【形態別】消滅型倒産が増加
形態別では「破産」が最多の64件(前年度比14.2%増)で全体の8割(構成比83.1%)にのぼった。このほか、特別清算の10件(前年度比150.0%増)を含む消滅型倒産が74件(同23.3%増)にのぼり、構成比は96.1%と大半を占めた。 再建型倒産は、民事再生法の2件(同84.6%減)のみで、2社ともきのこ類の栽培業者だった。前年度は鶏卵や畜産の大手業者やそのグループ会社の破綻が相次ぎ、再建型倒産が15件発生したが、2023年度は負債の小型化とともに消滅型倒産が中心となった。
【地区・都道府県別】最多は北海道の6件
地区別では、九州が最多の17件(前年度比21.4%増)で、このうち負債額の最大は(農法)きのこ工房(TSR企業コード:932046258、福岡県、負債6億4,000万円)だった。次いで、東北(同66.6%増)と関東(前年度同数)が同数の各15件、近畿が13件(同7.1%減)、北海道(同20.0%増)と中部(同50.0%減)が同数の各6件、四国が3件、中国が2件と続き、北陸は発生ゼロだった。 9地区のうち、4地区で前年度を上回り、4地区で減少、1地区が同数と、拮抗した。 都道府県別では、最多が北海道の6件で、このうち5件が畜産農業だった。次いで山形県、兵庫県、鹿児島県が同数の各5件、新潟県の4件と続く。農業が盛んな地域を中心に、全国で発生している点が「農業」倒産の特徴といえる。 ◇ ◇ ◇ 「農業」は、コロナ禍での需要減に加え、深刻な燃料高、飼料・肥料高、さらに伝染病が追い打ちをかけ、倒産が増勢をたどっている。2023年度は3月の1カ月を残し、年度の過去最多を更新中だ。2023年度は大型倒産は減少したが、高止まりする生産コストに見合う価格転嫁が難しい小・零細規模の事業者が押し上げる傾向が続いている。 農業関連企業は、新たな試みや画期的な農法を事業の核に据えたスタートアップ企業も少なくない。2月までの2023年度で負債が最大となった(有)ワールドファーム(TSR企業コード:282012621、茨城県、破産)は、全国に10カ所以上の農場を展開し、野菜の栽培から加工、販売までの一貫体制を構築。また、行政と連携した農地バンクを活用した耕作放棄地の解消、新規就農者の育成事業などの取り組みで注目を集めた。ところが、コロナ禍での飲食店の休業、休校が広がり、業務用カット加工野菜の需要が急減し、経営に行き詰まった。 専門性の高いノウハウを持ちながら、天候不順や自然災害、伝染病など予見できない事態に晒され、環境変化に対応できないケースも散見される。倒産した企業のうち、業歴20年未満の新興企業が約6割を占めることからも、新たな取り組みほど事業継続が難しいことを示す。 ただ、事業環境は厳しくても、食の安全や地域ブランドの育成、雇用の受け皿など、農業分野にかかる期待は大きい。農業振興や後進の育成が急務となるなか、「農業」の倒産増は日本の食糧自給率にも直結する問題だけに、早急な対応が求められる。