「体験格差」拡大のウラで、意外と知られていない「青少年教育施設」減少という現実
提案5:体験の場となる公共施設を維持し活用する
全国各地の児童館や公民館、青少年教育施設(青少年自然の家など)は全国的に減少傾向にある。しかし、これらの公共施設は市民が無償または安価に利用でき、地域のボランティアやNPOなどによるスポーツ・文化活動や子ども会、野外教育などの活動を陰から支えてきた。 公共施設自らが行う各種の講座やイベントなども、多くの親子に開かれた貴重な場だ。だからこそ、子どもの「体験」を支える公的なインフラの維持、そして更なる活用を提案したい。 青年の家や少年自然の家は、国の補助を得て、1960~1970年代前後に全国各地で設置されてきた。だが、少子化に伴う利用人数の減少による財政事情の悪化や、施設の老朽化と修繕費用不足などの事情が相まって相次いで廃止されている。 青少年教育施設全体では、ここ約25年間で450ヵ所以上が減少している(グラフ23)。廃止されたのち民間企業に売却される事例もある。民間のグランピング施設になり、高所得者向けのアウトドアサービスを提供する話も出てきている。 公共施設の減少は、子どもたちが安価に参加できる「体験」の機会を奪い、体験格差をますます広げることにもつながりかねない。特に青年の家や少年自然の家は、大人数の受け入れが可能なため、学校が主催する野外体験や宿泊行事などで利用されている。これらの施設が廃止されることで、公教育の中で行う体験機会も減少しかねない。 子どもたちにキャンプ等の体験活動のプログラムを提供する認定NPO法人夢職人の理事長の岩切準さんは次のように語る。 キャンプを実施できる公共施設が毎年減少しています。そのため、数少ない施設に団体が集中し、利用ができなくなるといったことも起きています。民間の施設もありますが、そこを使えば参加費が高騰し、参加できない家庭が増えてしまう。「体験」のすそ野を広げるどころか、狭めてしまうわけです。 子どもの「体験」を保障していくためには、こうした流れをそのままにせず、既存の公共施設を維持し、活用する方法を議論していく必要があるだろう。 東京都墨田区では、閉校となった第五吾嬬小学校の跡地に、小学校の校舎や体育館などの建物を残し、活用しながら、地域コミュニティの拠点を開設した。現在そこでは総合型地域スポーツクラブの「スポーツドアあずま」が、様々な運動やスポーツのクラスを、地域の子どもたちに対して低廉な価格で提供している。 加えて、注目したいのが児童館や公民館が持つ潜在的な可能性だ。これらの社会教育施設の職員の中には、子どもたちの見守りに関わることを通じて、一人ひとりの置かれた状況や興味関心を把握している方も少なくない。子どもたちが気軽に参加できるイベントなどを企画し、新たな関心を引き出そうとしているケースもある。 このように、全国各地にある児童館や公民館は、公共の施設として外部に「体験」の場を提供するだけでなく、地域の様々な「体験」の場とつながりを深め、子どもや親との間でコーディネーターに近い役割を果たす可能性も秘めているのではないか。
今井 悠介(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事)