日銀「時間的余裕」の表現封印 12月利上げ観測高まる 日米の政治的不確実性が波乱要因に
日銀が31日の金融政策決定会合で政策金利を据え置いたのは、国内の経済・物価が見通し通りに推移しており、じっくりと利上げを進めたいとの思惑がある。注視してきた米国経済の下振れ懸念は後退し、市場が本命視する12月の追加利上げシナリオの現実味はやや増した。ただ、衆院選の与党惨敗で国内政局は流動化。米大統領選も目前に控え国内外で経済の不確実性が高まっており、慎重な判断が求められそうだ。 「少しずつクリアになりつつある」。日銀の植田和男総裁は31日の会合後の記者会見でこう語り、米国発の経済・物価の下振れリスクが夏場に比べ低下したとの認識を明らかにした。最近たびたび用いてきた政策判断に関する「時間的余裕」という表現を「今後は使わない」とも宣言した。 外国為替市場はこれに即座に反応した。会合の結果が判明する直前は1ドル=153円台で推移していた円相場は、植田氏の発言が伝わると一時、12月会合での利上げを織り込む形で151円台まで急伸した。 ただ、10月に入り、その筋書きを狂わせかねない現象も出てきている。 一つは、米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領が優勢との見方があることだ。トランプ氏が主張する大型減税はインフレを再燃させ、強硬な対中路線や移民政策は世界でヒトとモノの流れを途切れさせかねない。植田氏も「新しい大統領が打ち出す政策次第では、新たなリスクが出てくる」と警戒感を示す。 もう一つが、衆院選での自民党大敗だ。少数与党となった石破茂政権は今後、国会で予算案や法案を通すため野党の協力が欠かせない。31日には「手取りを増やす」と訴え議席を伸ばした国民民主党との政策協議に入り、国民民主の求める政策を取り込む形で経済政策にも変化が見込まれる。 明治安田総合研究所の小玉祐一フェローチーフエコノミストは「日銀は『時間的余裕』の表現が過度に注目されることを嫌い、思い切って今後は使わないことにした」と解説する。背景には、日銀が特に気にかけていた米国経済の底堅さが確認できたとの判断があり、「12月利上げの可能性はさらに高まった」との見方を示す。 とはいえ、自民と国民民主の政策協調は「財政のバラマキにつながる可能性がある」(小玉氏)。財政悪化のリスクが意識されると市場の波乱要因にもなるだけに、経済の不確実性が日銀を縛る懸念は依然として残されている。(米沢文)