イチローの3000本への原動力と険しい前途
ヒットを打つには、なにより出場が大前提。その点、イチローが過去、故障者リストに入ったのはわずかに1回で、2009年の開幕を胃潰瘍で欠場した時だけだ。あの年、8月に左ふくらはぎを痛めたものの、欠場は8試合にとどまった。イチローがここまでほぼ皆勤を続けたことは、大きなマイルストーンに迫る原動力の一つとなっている。 そもそも、3000安打を狙うにはハンデレースだった。イチローのメジャーデビューは27歳。現在、3000本以上安打を打っている選手は29人いるが、デビューの年齢を調べて見ると、以下のようになった。 ~20歳 14人 21~25歳 15人 最年長は、24歳でデビューしたウェイド・ボッグス。実のところ、24人が21歳までに初打席に立っている。3000安打を打つには、早いデビューが必要条件と言える中、イチローの年齢は極めて特異でメジャーの平均年齢と言われる27歳から。この年齢でデビューして少しでも長期欠場があれば、3000本など到底届かないだろう。ちなみに3000安打には達しなかったが、2900本以上の安打を打っている選手を調べても、やはりほとんどが20代の前半でデビュー。中では、サム・ライスの25歳が最年長だった。 もちろん、ケガをせず試合に出続けるだけでは無理で、年齢的なビハインドは、ハイペースでヒットを重ね、克服した。 以下、イチローの2500安打までの節目の到達試合数だが、いずれも史上5番目以内というスピードである。 1000安打 696試合目 史上3位 (1位 チャック・クライン 683試合) 1500安打 1060試合目 史上3番目 (1位 アル・シモンズ 1040試合目) 2000安打 1402試合目 史上2番目 (1位 アル・シモンズ 1390試合目) 2500安打 1817試合目 史上4番目 (1位 アル・シモンズ 1784試合目) ただ、2000安打を超えたあたりから、ペースダウンしているのは事実。501安打から1000安打までは354試合、1001安打から1500安打までは342試合、1501安打から2000安打までは364試合とさほど誤差はないが、2001安打から2500安打までは415試合である。そして、2501安打から2900安打までは483試合となっている。もちろん、ヤンキースに移籍してからは途中出場が増えているので、2500安打までのペースとは比較できないが、このままいけばもう少し時間が掛かりそうだ。 具体的に3000本の到達時期を予想してみる。今季の出場パターンが一つの参考になるので、それを元にすると、1試合あたりの安打数は0.61本(29日現在)。ここから100本に必要な試合数を逆算すると約164試合だ。今季の残り試合は61試合。残り全試合に出場し、ここまでと同じペースでヒットを打ったとすれば約37本が加わり、シーズン終了時3000安打まで残り約62本ということになる。62本ということは、今季のヒットペースに当てはめれば、約107試合が必要。想定通りなら、来年の夏に達成だ。 いよいよ現実味が増すが、もちろん、イチローがこのオフにフリーエージェントとなるだけに、来季の契約が決まらない限りは、机上の空論に過ぎない。そこをまずはクリアしてからの話だ。 残り99本という数字は、手の届くところにありそうで、打席に立つ機会を与えられなければ、絶対に届かない。繰り返すが、ヒットを打つには出場が大前提。残り2ヶ月あまりのシーズンは、3000本に近づくというより、その機会を得るため、イチローにとって特別な意味を持つことになるかもしれない。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)