現役引退から9年…フィギュアスケート界の貴公子と言われた小塚崇彦が重機の免許を取る理由「重機の習得プロセスはジャンプに似ている」
重機の操作習得プロセスはジャンプに似ている
講習は2日間。重機に乗って実際に土砂や丸太を動かす訓練や座学を受けた。プロである指導スタッフから「ここにいる皆さんは講習を受けて免許を取った瞬間から『プロ』。その覚悟を持ってください」と言われ、場の空気がピリッと引き締まった。 指導スタッフによると、トップアスリートの技能習得スピードは一般人の3倍以上というが、小塚さんは「プロの方の動かし方を見ると、人の手が動いているかのよう。僕たちはまだ使えない」と苦笑い。それでも、「重機の操作を習得していくプロセスはスポーツをやっていた時と似ている。色々なことが順序立ててできるようになっていく嬉しさは、ジャンプができるようになるとか、回転が多くなるとか、そういうことと凄く似ている」と語る様子は生き生きとしている。
各競技の日本代表経験者と語り合う時間も
今回の講習には元プロ野球選手の鳥谷敬さん、元サッカー選手の田中隼磨さん、元ラグビー選手の畠山健介さん、元体操選手の寺本明日香さんら、各競技で日本代表経験のあるアスリートが参加した。1泊2日の“合宿免許”とあって夜には酒を酌み交わしてそれぞれの思いを語り合う濃い時間もあった。 合宿中の6月3日早朝には能登地方で規模の大きな地震が起き、小塚さんたちが宿泊していた場所も「震度3くらいの揺れがあった」という。そこであらためて確認したのは災害支援への思いだ。 「僕は愛知に住んでいるので、東海大地震や南海トラフ地震がいつ起こるかわからないと言われていて不安な状態にあります。そういう中で、重機を動かせたりガレキの撤去をできたりすれば、いざというときに家族や人の役に立つスキルが一つ備わった状態になる。フィギュアスケートができても、震災が起きた時には跳ぶことも回ることもできないと思うんですよね。被災地に行って、みんなと触れ合って笑顔にするということはできるかもしれないですけど、重機の力を借りていろいろなことをできることは人の役に立てることだと思うんです」 講習会には男性アスリートのほかに、寺本さんをはじめとする女性アスリートや、パラアスリートもいた。多彩な顔ぶれがそろう中で刺激を受けたという小塚さんは、意外な着眼点についても語った。 「重機はパワーがあるので、力のない女性でも、フィギュアスケートをやっていて上半身にそれほど力がない僕のような人も、脚が動かないというパラアスリートも、免許と技術を習得すれば同じように活躍ができるんです。これには、それぞれの障がいに応じた形で競い合えるパラリンピックに近いものを感じました」