「ここは巨人だよ」…原辰徳元監督に「目指す野球」を聞いたら、返ってきた「意外な答え」
---------- 巨人・原辰徳、名将・野村克也に仕えたオイシックス新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ監督、橋上秀樹氏が明かす、今勝てるチームを追求した著書『だから。野球は難しい』(扶桑社新書)から一部抜粋して、内容を紹介する。 ---------- 【写真】球団史上ワースト記録の更新は不可避?原巨人が岡田阪神に勝てない理由
原監督の野球観、巨人というチームに求められる戦い方とは
巨人に入って数カ月が経過したとき、私は原監督の野球観を知っておきたかった。 これまでどんな野球生活を送ってきたのか、影響を受けた人は誰だったのか、采配や戦術、選手起用についてはどう考えているのか。原監督の野球観を知ることによって、「私はこの監督のもとで、こういう仕事をしていこう」と判断できるようになるからだ。 もし監督の野球観がわからないままだと、戦略コーチとしてどういう仕事をしていけばいいのかがつかめないままになってしまう。 あるとき、原監督にこんな質問をしてみた。 「原監督の野球観を知りたいので、ぜひ目指す野球というものを教えていただけないでしょうか」 すると原監督の答えは、 「それはないよ」 あっさり否定されてしまったのだ。あまりにも意外すぎる答えに、私はなんだか拍子抜けしてしまったのだが、一方では「君には本音は言わないよ」と隠されたような思いもした。 2012年時点でいえば、原さんは監督として9年目を迎えていた。監督としてのキャリアもさることながら、セ・リーグ優勝4回、日本一2回と実績も十分。それだけにどんな考えで采配を振るっているのかに関心があったのだが、このときは原監督の真意がつかめなかった。 だが、原監督とシーズンを通して共に戦ってきて、少しずつ気づいたことがあった。それは、「勝ち方に対するこだわり」だ。 私が野村さんのもとでヘッドコーチを務めていた楽天での4年間、勝ち方のバリエーションは豊富にあるものだと考えていた。相撲で言えば、寄り切りや押し出しではなく、けたぐりやいなし、場合によっては八艘飛びといった、奇襲のような技を駆使してでも最後に勝てばいい―そう考えていた。 けれども巨人でそのような提案をすると、原監督からは決まってこう返された。 「橋上、君の言いたいこともわかるが、ここは巨人だぞ」 当時の巨人は投打ともにバランスが整っていた。相手チームは横綱と思って挑んでくる。 楽天のように戦力が乏しく平幕のような立場のチームであれば奇襲を用いることも必要だが、横綱が奇襲を用いることはない。だからこそ、四つ相撲を取り切って寄り切りや押し出しで勝つというのが、原監督の考える野球だった。 そこで私が選手を前にミーティングを行うときに、こんな話をしたことがあった。 「巨人くらい戦力が整っていたならば、あまり奇襲はいらないと思います。もし奇襲を用いるなら、チームバランスが崩れていたり、選手のモチベーションが下がったりしているときに用いるくらいではないでしょうか。反対に相手は奇襲を使うこともあるかもしれませんが、相手のペースで試合をしないようにすること。これを心がけるべきです。四つ相撲で寄り切ることを考えていきましょう」 選手たちは長丁場のペナントレースに入って連敗が続くと、自分たちが目指すべき野球の方向性を見失ってしまうときがある。そんなときにミーティングの席でこうしたメッセージを選手たちに伝えて、「もう一度原点に立ち返って野球をやろう」という気にさせることも、私の役割の一つであったのだ。
負け方にもこだわりを持った巨人
巨人に入って発見したことがもう一つある。巨人というチームは、勝ち方にこだわるのと同時に、「負け方も大事」というのがあった。 ---------- 強者ならではの勝負論を持つ巨人。周りの球団はどのように対策し、またそれに対して巨人はどう立ち向かったのか。詳しくは【後編】『巨人はサウスポーが苦手…元コーチが打ち明ける、巨人が最も苦手とした「投手の名前」』で引き続き解説していく。 ----------
橋上 秀樹