ラグビー日本代表が敵地仏をブーイングに包んだ引き分けをどう評価すべきか
日本代表のフランカーであるリーチ・マイケルキャプテンの言葉も、ただ前向きというわけではなかった。 「両チームともチャンスを逃していた。誇れる試合でしたが、満足はしていません。反省して取り組みたい」 もちろん、敵地で世界ランキング8位のフランスを相手に歴史的勝利寸前に迫った日本代表にとっての収穫はある。 チームでは10月22日から南アフリカで年間最優秀コーチ賞を2回受賞したジョン・プラムツリー新ディフェンスコーチが就任。攻撃的な防御システムの完成度を徐々に高めていたが、この午後も鋭い出足が示された。背後を突かれても、インサイドセンターの立川理道が再三の好カバーで危機を救う。 「チームのシステム上(前に)出てディフェンスすることが多かったので、カバーできるところはカバーしたかった」 攻めてはフランス代表の防御があまり飛び出してこない傾向を見てか、従来以上に自陣からの展開を増やした。その好例は、後半開始直後のノーホイッスルトライの場面である。ここでは皆が自陣から大きく揺さぶり、最後は左中間のスペースをアウトサイドセンターのラファエレ ティモシーが突いた。田村のゴールキックも決まり、15―13と日本代表がリードを奪った。 その他の場面でも、攻防の境界線へ駆け込む選手とその背後でパスを待つ選手が何度もシンクロ。即興に映るようで緻密に練られたアタックは、今後も日本代表の長所となりそうだ。主将経験のあるフッカーの堀江翔太はこう話す。 「いきなり違うストラクチャー(戦術の形)が入っても(選手は)しっかりと勉強していて、理解力、順応性が高い。これは日本人特有だと思う。個々でバラバラにやるより、スタッフの落としてくる方向性を信じ切ってやる。プラスアルファで自分たちで考えて肉付けしていく」
2015年のW杯イングランド大会で歴史的3勝を挙げた日本代表は、現在、国際舞台への免疫をつけてきている。国際リーグのスーパーラグビーに、サンウルブズというチームを参戦させているためだ。各選手の資質は高まっているなか、堀江らは「理解力」「自分たちで考えて」をキーワードに掲げる。 対アイルランド代表戦2連敗を喫した今年の6月より、さらに成長したのだとアピールする機会だった。それだけに低調だった「強豪国」との引き分けには口惜しさが残るのだ。 手狭な取材エリアにジャージィのまま現れた堀江は、こう声を絞る。 「それは悔しいですよ」 日本代表は、一旦、解散。以後はイングランド大会時のようなフィットネスやフィジカリティを取り戻すべく、地道な鍛錬にも着目していく。ジョセフHCは言う。 「いい土台はできている。選手とコーチ陣は非常にいい連携が取れています。でもまだまだ体格も小さいし、フィットネスも足りない。これからハードワークし、スマートに戦いたい。課題は山積しています」 イングランド大会までの日本代表は、エディー・ジョーンズ前HCのもとでの気の遠くなるような猛練習などの末、成功を掴んだ。かたや現・日本代表は、首脳陣の打ち出すプランを共有したうえでそれを選手間でブラッシュアップ。試合のレビューとプレビューでも選手が献身するなど、身体以上に頭を使う。指揮官の言う「選手とコーチ陣」の「非常にいい連携」の行く末に、さらなる注目が集まる。 (文責・向風見也/ラグビーライター)