<スロウトレイン>演出・土井裕泰と脚本・野木亜紀子が対談 「ホームドラマは無くならない」 オリジナルを生み出す力
◇「アンナチュラル」きっかけでオリジナルが増えた
土井さんは「空飛ぶ広報室」「重版出来!」での仕事ぶりを見て、野木さんの「オリジナルを書く力」を見抜いていた。
「『空飛ぶ広報室』で原作にないエピソードを盛り込んだんですよね。新垣結衣さんが演じたテレビ局サイドの話は結構オリジナルのエピソードがあって。野木さんは過酷なスケジュールの中でちゃんと自分の足で取材していた。そのオリジナルの部分が素晴らしいんです。原作のテーマをさらに深めるためのエピソードとしてちゃんと機能していた。『重版出来!』のときも、最終回はほぼオリジナルの話で。時間的にもギリギリだったので一度上がってきたもので進めようとしたんですけど、野木さんはそれを全部捨てて、一晩で全部書き直したんです。何かを生み出すという力があるというのは、その二つの作品を通じて感じていました」
土井さんがドラマの打ち上げの席で「もっと野木さんにオリジナル脚本を書かせた方がいい」と発言したことがきっかけで、「アンナチュラル」(2018年)が生まれたといわれている。
野木さんは「『アンナチュラル』をオリジナルで作って、それなりにヒットしたことで、業界的にもオリジナルを作る機運が戻ってきたんじゃないかな、と私は勝手に思ってるんです。原作ものが悪いわけではないですけれど、オリジナルを作るときはキャラクターも全部ゼロから作るじゃないですか。何もないところから作っていくことって、原作があるときとはだいぶ違う作業になるし、オリジナルをやらないと使えない“筋肉”みたいなものもありますしね」と話す。
◇「向田邦子新春ドラマスペシャル」を思い浮かべ
お正月のスペシャルドラマとして、土井さんはTBSの「向田邦子新春ドラマスペシャル」を思い浮かべたという。
「僕がTBSに入る前から、TBSでは『向田邦子新春ドラマスペシャル』を放送していたんです、向田さんが亡くなった後も久世光彦さんらがホームドラマにしてそれを新年に放送していた。僕はそれを毎年見ていて。向田さんの作品は、いわゆる“家族万歳”的なドラマでは全然ないわけです。背景は作品によって違うんですけど、みんなさまざまな秘密や悩みを抱えて生きている。お正月にやるのであれば、家族みんなで気楽に見られるけれど、見た後に何か残るものがあるといいというか。だから僕の中では、お正月にホームドラマをやるというのは、向田さんのドラマシリーズのイメージを自分の中で持っていました」