映画『四月になれば彼女は』:圧倒的なエモーションと映像で紡ぐ「愛」の消失
稲垣 貴俊
「結婚して2年で、愛は情に変わる」──。映画『四月になれば彼女は』は、川村元気の同名小説に基づくラブストーリー。“恋愛なき時代”に、愛とは何か、いかに変化していくのかを、ひとりの精神科医とふたりの女性を軸に描いた物語だ。寂しくも情熱的な恋愛映画である。
「愛」はどこに消えたのか
「あのときの私には、自分よりも大切な人がいた。それが永遠に続くものだと信じていた」。精神科医の藤代俊(佐藤健)のもとに、大学時代の恋人である伊予田春(森七菜)から10年ぶりに手紙が届いた。写真部の後輩だった春は、写真を撮りながら海外を旅しており、ちょうどウユニ塩湖にいるという。 藤代には婚約者がいた。動物園に勤務する獣医の坂本弥生(長澤まさみ)だ。ふたりはすでに同棲生活を始めており、穏やかな日常を送りながら、結婚に向けての準備を着実に進めていた。ところがある夜、弥生は藤代にこう問いかける。「愛を終わらせない方法、それはなんでしょう?」 翌朝、弥生は突如失踪した。朝食の準備をしている藤代が弥生の寝室に声をかけても返事はなく、部屋はもぬけの殻。行方のわからぬまま時間が過ぎるなか、藤代は弥生を探すと同時に、春との初恋の記憶をたどってゆく。永遠であるはずだった愛や恋は、なぜ、どこへ消えてしまったのか──。
原作者の川村元気は、『怪物』(23)や『ラストレター』(20)『寄生獣』2部作(14~15)など数々のヒット作を世に送り出してきた映画プロデューサー。小説家として『世界から猫が消えたなら』や『億男』『百花』(22年に自らの手で映画化)などを発表してきた。 原作『四月になれば彼女は』は、川村が2016年に発表した3作目の長編小説で、映画化の話は刊行当時から存在したという。今回、監督に87年生まれの山田智和、出演者に89年生まれの佐藤健と87年生まれの長澤まさみ、撮影に88年生まれの今村圭佑という、藤代や弥生と同じ30代のクリエイターが揃うかたちで企画が実現した。