しこちゅ~山ある記 番外編・佐々連尾山中之川峠ルート(愛媛)
愛媛新聞本紙で随時掲載している、四国中央市の山をさすらう登山企画「しこちゅ~山ある記」。5月29日、3踏目にしてついに本格登山デビューとなる千メートル級の山に挑んだ。運動嫌いで登山初心者の記者が想定外のハプニングをものともせず、体を張ってディープな山行の世界をお届けする。(三津田媛琳) ■目指すは四国のど真ん中! 今回の目的地は四国山脈のど真ん中に位置する佐々連尾山(1404メートル)。連載で案内役をお願いしている地元の登山ガイド松本智広さん(58)によると、愛媛と高知のちょうど県境をたどる登山の道中では、運が良ければ太平洋が見えるとのこと。千メートル級の山に正直尻込みしていたが「四国中央市から太平洋を見られるなんて」とがぜんやる気が湧いてきた。いったん高知県側に回り込んで頂上を目指すルートを取るとのこと。3県に接する四国中央市ならではの楽しみ方だ。 ■またまたルート変更?源氏の隠れ里へ 道中の仲間との会話も登山の楽しみの一つ。なんとなく気分も落ち込みやすい5月。日ごろの悩みなどを打ち明けていると「よし、人の営みを見に行こう!」と、松本さんがにやり。国道319号へと進み「今回は頂上を目指さず、昔の登山道から山歩きを楽しもう」といたずらっ子の表情。「お薦めの集落もあるんよ。たまにはこういうのもいいやろ」。松本さんによると、新たな目的地は四国中央市の奥座敷「中之川集落」。かつては200人以上が暮らし、路線バスも走っていたが、いつしか人も減り、現在は限界集落となっている。 ■中之川集落到着。いざ佐々連尾山へ! ハナシバ畑を横目に集落を抜け、さらに上を目指して登山口へ。ぎりぎりまで進み、行き止まりになったところで車を降りた。 かつては登山道として使われていたルートとあって、所々に石の階段や木の橋などが残っている。集落の住民らも高知との往来に通ったというが、この時は人の姿を見ることはなかった。橋はこけむしていて滑りやすく、何度か足を取られた。松本さんのアドバイスがなかったらと思うと、ぞっとする。 先頭の松本さんの歩みが止まる。「これは向こうに渡れんね」。滝のような激流が行く手を阻んでいた。前日の大雨で水量が増加したようだ。本来なら沢。ぴょんぴょんと石伝いに「向こう岸」に渡る予定だったそうだが、ごうごうとうなりを上げる流れになすすべもなく、遠巻きに眺めるばかり。佐々連尾山を目指すこの日のチャレンジは、歩き始めてから1時間もたたずに「敗退」となった。しかし大迫力で圧巻の自然のパワーを目の当たりにし「これなら仕方がないや」と、不思議とすがすがしい気持ちでもあった。 この日、山頂に立つことはなかったものの、中之川はまさに桃源郷。かの集落を訪れることができ、それはそれで大満足の山行だった。
愛媛新聞社