『わたしの宝物』美羽、宏樹、冬月それぞれの選択 栞の存在が“帰ってくる場所”に
「違うよ、栞は私の子」 栞の存在が神崎夫婦の関係性を立て直し深める道標になり、だからこそその栞の出自の秘密が2人を引き裂くきっかけにもなり、そしてまた磁力のように離れられない“帰ってくる場所”にもなった『わたしの宝物』(フジテレビ系)最終話。 【写真】『わたしの宝物』最終話場面カット(ネタバレあり) 宏樹(田中圭)の計らいで、美羽(松本若菜)は栞と冬月(深澤辰哉)と3人での時間を過ごす機会を得る。最後まで冬月は結局栞が血縁上の子どもであるということを知らされないままだった。 「この子は俺の子?」という冬月からの涙を堪えながらの問いかけに、美羽は冒頭の答えをした。栞を1人で育てることを決意していた美羽らしい答えではあった。しかし冬月はこの時どんな答えを期待していたのだろうか。さすがに彼も周囲の様子からもうっすら察していたのだろうが、改めて美羽の決意と覚悟に触れて自身の出る幕はないと心底諦めがついたのかもしれない。 「家族」というものは自動的になれるものではない。「生みの親より育ての親」という言葉もある通り、生まれて間もない栞が宏樹の手を掴んで離さなかったように、目をかけ手をかけてくれる人がいないと消えてしまう小さな小さな命を懸命に守り育む過程で、人は父になり、母になり、親子になっていくのだろう。 だからこそ、宏樹だけが身を引いて万事丸く収まるという話でもない。宏樹が部外者という話でもないのだ。「親子の時間は取り戻せると思う」「栞が実の父親と一緒に暮らしていく幸せもあると思う、それに美羽だって」と自身の幸せよりも2人の幸せやベストの形を見つけようと自問自答した時間こそが、宏樹をより優しく強い“父親”にしたのだろう。
切なさが拭いきれない冬月(深澤辰哉)
一方で冬月は「あなたと美羽さんが時間をかけて愛情を注いできたから」栞があんなにかわいく元気に育ったと話していたが、一人だけ何も知らされず日本に帰国したら浦島太郎状態で、急に美羽に会うことさえ拒絶された冬月については、なんだかずっとずっと切なさが拭いきれないところがある。しかし、冬月にも幸せにしたいと思えるアフリカの子どもたちという存在ができて本当によかった。 “不倫”であればあくまで大人同士の話ゆえに、必要以上にスキャンダラスに、あるいは神聖化しすぎた上で描かれたりもするが、“托卵”というテーマはさすがに難しい。大人の都合に巻き込まれ生み落とされた命が既にそこにあるわけで、本作でも大暴走を見せた真琴(恒松祐里)や水木(さとうほなみ)でさえも、あくまで不倫についての断罪にのみに留まっていた。そんな中、誰も“子ども”の存在を誰かに対するマウントの材料や関係性を繋ぎ止める理由にはしていなかった点は非常によかった。 ただ、なかなかあそこまでのモラハラ男がいくら子どもができたことがきっかけとはいえ、カウンセリング通いもなしにあんなに相手を思いやれる献身夫に変貌を遂げることは現実的ではないと思えてしまうのも正直なところだ。しかしながら意地悪なツッコミなどいくらでも思い付けてしまう美羽と宏樹の選択や宝物について、周囲が何かをジャッジしたりとやかく言うことはお門違いで無粋だと改めて思わされた。
佳香(かこ)