【池上解説】なぜ起きた?自動車メーカー認証不正問題
今月、日本の大手自動車メーカー5社が国の定めた試験で不正を行ったとして 大きなニュースになりました。自動車製造業といえば日本の基幹産業です。 自動車産業あっての日本産業というイメージがあるだけに、どうしてこんなことになったのか、なぜ起きたのか解説してまいります。 【画像】なぜ起きた?自動車メーカー認証不正問題
■「型式指定」って何?何のためにある?
そもそも自動車とは人の命に係わる乗り物です。そのため開発段階から販売までの間に様々なテストを行っています。そしていざ発売、となったら国が定めた認証試験をクリアする必要があります。それが今回問題となった、「型式指定」です。 型式指定とは、大量生産される自動車の安全性を確保する仕組みで、この試験に合格すれば1台1台検査を受けずに販売できるようになります。大手メーカーから普通に販売されている車はすべてこの型式指定を取得しています。衝突したらどうなるか、ブレーキは、騒音は、など車種ごとに様々な試験を行って、すべてをクリアすれば取得することができるのです。 今回その試験方法が問題となりました。もちろん国の審査官が立ち会って検査する場合もありますが、基本は各メーカーが自分たちで検査をして、その結果を国土交通省に提出して認めてもらう、そういう方法をとっています。自動車メーカーと国土交通省との信頼関係の上に成り立ってると言ってもいい制度ですね。自分たちの車を自分たちで検査する、そこに不正が生まれる隙があったわけです。
■国ごとに基準が全部違う?
そして今回のニュースでは「国内基準」「国連基準」なんて言葉も出てきました。 実は国によって、販売のために必要な基準が違うんです。でも日本の車は世界中で売られていますよね?輸出する全部の国に合わせていちいち試験を行っていたら大変です。そこで日本や韓国、ヨーロッパなど62の国と地域では「国連基準」を採用しています。 国連基準に則った試験をすれば、お互いにその国で発売できる、というものです。ただし、日本では国連基準以外に国内基準、というものもあります。172ある試験項目のうち、国連基準が105、日本独自の基準が67となっています。このすべてをクリアする必要があるんです。 ここでちょっと大変なのが日本車のお得意さんでもあるアメリカはこの国連基準を採用していないんです。アメリカって国土も広いですし、小型車だけでなくピックアップトラックなど大型車に乗っている人が多いですよね?そのため日本やヨーロッパとは違った独自基準を採用しているんです。 世界で車を売ろうとすると、国内外の基準にあわせた様々な試験を行ってそのすべてをクリアする必要がある、これは本当に大変なことです。なぜ認証試験で不正が起きたのか、その理由の一つがこの制度の複雑さと言われています。更に日本車は種類もとても多いこともあって、人手不足も原因の1つだとメーカーは明らかにしています。 そんな中、実は今回いくつかあった不正のうち、国の基準より厳しい条件でテストを行った結果、不正となったものもありました。例えば50キロのものをぶつければいいところを100キロでぶつけてテストした、でも決まりは50キロなので不正、というわけです。 なぜ規定より厳しい条件でテストをしたのでしょうか?国連基準よりもアメリカの基準の方が厳しいものがあり、そちらの数字に合わせて試験したのが一つの理由と見られています。 「より厳しい基準で検査しているのだから問題はないのでは?」と私たちは思いますよね? でも国土交通省によると、ルールを守らず検査を行った場合、そこだけ基準値を外れた試験を行えば他の試験項目に影響が出る可能性もある、条件も色々変わってきてしまうことから、例え50キロでいいところを100キロでテストしたとしてもそれは「本来より厳しい条件をやった」とは言えないということです。あくまでもルールを守ることが大事、ということですね。 各メーカーは基準に沿った再試験を行い、安全性に問題はないと発表しています。 今回問題になっていない、他の車種は大丈夫なの?と心配になる方もいるかもしれません。 しかし自動車は車種によって開発する人も製造する工場も違います。ある車種に問題があったからと言って他のも危ないのでは?ということにはなりません。