搬入時に破水トラブルも。出産を乗り越えて辿りついたパティシエの働き方「KUNON Baking Factory」久野綾乃さん(後編)【女性パティシエの履歴書vol.1】
“面白い要素”の掛け合わせ。価値を作り、伝える
お店の営業や集客においては、ロッキング・オン時代の教えが多く生きているそう。「全部で4つあるんです」と、久野さんはその秘訣を話します。「まず大切なのは、需要を見極めて複数の“面白い要素“を掛け合わせ、まだ世にないものを作ることです。この店で作っているキャロットケーキのパフェも、わかりやすい例ですね。キャロットケーキのような熱狂的なファンのいる土台があると、その要素が好きな人たちが興味を持ってくれるんです。そのうえでさらに2つ以上の要素、この店だとパフェの裏テーマや焼き菓子店らしさ、静岡県産をプラスすることで独自の価値を高めています。次に、作った価値をお客様に積極的に伝えるように心がけています。出身地である静岡県に戻って農家の皆さんからリアルな苦労話やこだわりを聞くと、私自身もインスピーレションが湧くんです。私が作るお菓子によってその思いや情熱のバトンをつなぐために、パフェを作っている間にお客様に構成や産地を含めたストーリーを説明しています。3つ目は品質で、“美味しいことに誠実”であることです。作り置きすれば、オペレーション上は楽ですが、できるだけ当日朝や直前に焼くことにこだわって妥協しないようにしています。フルーツも、農家さんと丁寧にやりとりして、提供日にあわせて収穫してもらう、といったところですね。最後は、周りに感謝することです。新しいスパイスや設備もお客様やシェフの紹介で知ることが多く、追加購入したコンベンションオーブンはフランス焼菓子の専門店である『cuisson-lucca(キュイソンルカ)』さんの紹介のもとで購入することができました。他のオーナーパティシエと比べて私は経験が浅いですが、“一生懸命やると助けてくれる人がいる”とこの5年で実感しました。周りに感謝しながら、これからも謙虚な姿勢で常に学び続けていきたいです」
流れに身を任せて、ポジティブに
「何もない人がお菓子を売れるようになるには、何でもしないといけないので」と、これまでの歩みやお店への思いを語る久野さん。そんな久野さんが考える、女性のイベントと仕事を両立するコツとは? 珈琲店にて「変化をマイナスに捉えず、柔軟でいることが大切だと考えています。私自身はお店を不定期営業で再開した後、コーヒー店でバリスタの経験も積みました。『今は子どもが小さくて長時間働けないから、外で勉強しようかな』みたいに、ポジティブでいるようにしていますね。店側に合わせた完全不定期の営業スタイルは、お客様にとっては来店しづらく敬遠されるもの。それを踏まえて、選ばれる店になるためにより一層商品力を磨き、努力し続けることも重んじています。新たに学んだことをどうお店に活かしていくかは未定ですが、この地域で移転を検討しています。これからも情熱を持って静岡の果物を使い、良さを伝えていきたいですし、お菓子を食べることで心(精神)を満たすような、日常に寄り添う菓子店を目指していきたいです。この街の児童福祉にも貢献したい気持ちもありますし、地域に根付いた女性パティシエとして、この南砂町をどう盛り上げていけるか、ワクワクしながら構想を練っています」取材の最後まで、笑顔をこちらに向けながら話をしてくれた久野さん。「KUNON Baking Factory」のさらなる進化、そして久野さんの経験を映したまだ見ぬお店、どちらも想像するだけで心が躍ります。 About Shop KUNON Baking Factory 東京都江東区北砂4-29-14 営業時間・定休日:完全不定期(Instagramで告知) Instagram:@kunon_baking_factory
ウフ。編集部 磯部美月