まさに異形!?「まな板付けたビジネスジェット」な攻撃機 採用決めた米空軍の意図とは
当初は「EC」と呼称、なぜ変わった?
アメリカ空軍の攻撃機は、伝統的に「A」ナンバーで呼ばれてきました。A-10「サンダーボルトII」のような重装甲の近接航空支援機から、A-29「スーパーツカノ」のような軽攻撃機まで、その役割は多岐にわたります。 【写真】新旧「コンパスコール」が並んだ! 2機を比較してみる しかし、長らく新しい「A」ナンバーの攻撃機は誕生していませんでした。これはF-16やF-35など、戦闘機と攻撃機を単一の機種で置き換えられるようになったことで、戦闘機の「F」ナンバーに統一されてしまったことが主な要因とされています。しかし2023年、アメリカ空軍に「A」ナンバーの新鋭機が久しぶりに誕生しました。 その機体とはEA-37B「コンパスコール」です。攻撃機「A」の前に電子戦を意味する「E」ナンバーが付与された同機は、ビジネスジェット機ガルフストリームG550を原型とし、胴体左右に大型電子戦アンテナを搭載した、従来の攻撃機のイメージを覆す異形の機体です。 実際EA-37Bはミサイルも搭載せず、爆弾も投下しません。では、EA-37はどのように攻撃するのか。その任務は、電波という無形の領域で繰り広げられる「エレクトリック・アタック(電子攻撃)」にあります。 敵のレーダーを欺き、通信を遮断し、電子機器を麻痺させるこれらの作戦は、物理的な破壊をもたらすわけではありませんが、現代の戦場においては、敵の指揮系統を混乱させ、戦闘能力を著しく低下させる、いわば、電波という「ソフト」な力で相手を翻弄する、新たなタイプの攻撃機だと言えるでしょう。 従来、輸送機をベースとした電子戦機は電子戦を意味する「E」と輸送機(カーゴ)の「C」を組み合わせた「EC」ナンバーが与えられるのが通例でした。EA-37Bの前任機にあたる機体はEC-130Hと呼ばれており、EA-37Bも当初はEC-37Bと呼称されていました。
40年使った先代「コンパスコール」は退役の予定
既存の「EA」ナンバーを持つ機体には海軍の艦上機EA-18G「グラウラー」があります。同機はF/A-18F「スーパーホーネット」を原型とする電子戦機で、主に地対空ミサイルを無力化する敵防空網制圧ミッションに投入されます。 そのため、EA-37Bもそうした作戦へ投入されることを強調するために、電子攻撃機を意味する「EA」ナンバーに改められたのだと考えられます(ただしEA-18Gは攻撃兵器を搭載することも可能な点で大きく異なる)。 興味深いのは、EA-37という名称が、かつてベトナム戦争で活躍したセスナA-37「ドラゴンフライ」という攻撃機と重複していることです。しかし、両者は全く異なる機体です。A-37が爆弾やロケット弾で地上目標を攻撃したのに対し、EA-37Bは電波で敵の電子システムを攻撃します。ゆえに、同じ名前でありながら、その役割は天と地ほども異なります。 EA-37Bの合計取得数は10機を予定しており、1980年代から使用されているEC-130H「コンパスコール」を置き換える見込みです。双方の機体とも愛称は「コンパスコール」であるため、日本風にいうなら「襲名」と形容できるかもしれません。 初代「コンパスコール」はプロペラ機でしたが、新たな「コンパスコール」はジェット機です。これにより、戦場における機動性と生存性の向上が期待でき、ミッション効率は格段に上昇すると期待されています。 なお、このような高速化は国家間の戦争、ひょっとしたら対中国を意識したものと受け取ることができます。
関 賢太郎(航空軍事評論家)