プーチンと国民の離反を狙うウクライナ軍の戦略
さらに、作戦の地理的広がりという点でも、ウクライナ東・南部が中心の地域戦だった第1次反転攻勢とは大きく異なる。西部国境州であるクルスク州に越境攻撃する一方で、首都モスクワを含めより広範な地域を攻撃対象としている。 ■大都市住民に「戦争の恐怖」を与える その象徴が、2024年9月1日未明にモスクワ及びその周辺で起きたエネルギー関連施設への大規模なドローン攻撃だ。ウクライナ軍にとって、侵攻開始以来最大規模のドローン攻撃だった。首都の日常生活を脅かすことでロシア国民の心理的不安感を高めることも狙っている。
ウクライナはなぜ、モスクワなど大都市への圧迫を強めているのか。それは、今まで侵攻作戦に動員された住民の数が地方と比べて極めて限定的で、事実上の優遇を受けてきた大都市住民をして、戦争の恐怖を肌身で強く感じさせるためである。 大都市住民は地方の住民に比べ、本音では侵攻反対の声も比較的には多いとみられる。しかし動員もされず、反戦的言動への弾圧も厳しいために、侵攻を続けるプーチン政権に対し、反対の声を上げることもなかった。
結果的にそういう彼らが戦争継続を支えてきたと言える。最近、キーウを取材した際、ある市民は筆者に対し「ウクライナに親族や友人も多いモスクワなどの大都市住民は非道徳的だ」と批判したのが印象に残っている。 ゼレンスキー政権は今回、こうした大都市部への軍事的圧力を加えることでロシア国民の厭戦気分を高め、プーチン氏からの大都市部住民の離反を狙っているのだ。 その意味で、ゼレンスキー政権が始めた今回の反転攻勢はプーチン政権の支持基盤を切り崩すという政治的効果を狙った「戦略的攻撃」と位置付けることができる。
この大都市部住民には、一般市民のほかに、プーチン政権を支える屋台骨である軍高官、オリガルヒと呼ばれる大財閥層も含まれる。かなりの数の軍高官にとって、現在進行している国防省高官に対する汚職容疑での逮捕ラッシュで、戦争どころではない状況だろう。 オリガルヒたちも西側からの経済制裁の強化で、ビジネス上も財政上も厳しくなっているとみられている。その意味で、クルスクへの侵攻を防げなかったプーチン氏への不満はじわりと広がっているのは間違いないとウクライナ側はみている。