「新たなシリア待っていた」 「救国政府」移譲に市民期待、衝突も
シリアのアサド政権が崩壊したことを受け、ジャラリ首相は9日、反体制派を主導する「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)が北西部イドリブ県を拠点に設立していたシリア救国政府に対し、政権を移譲することに同意したと明らかにした。中東の衛星テレビ「アルアラビーヤ」が報じた。8日に独裁政権が崩壊したシリアで、スムーズな権力移譲が実施されるかが注目されている。 救国政府はシリア内戦下で、イドリブ県など一部地域に押し込まれていたHTSが2017年、行政部門として設立した。「内務省」や「保健省」など、通常の政府組織を模倣する形で組織を整えており、公式ウェブサイトによると「解放されたシリア北部の住民に奉仕し、治安と安定を維持すること」を主要な目的に掲げている。 ロイター通信は、救国政府を率いるバシル氏が移行政府の首相に任命されたと報じた。HTSのジャウラニ指導者とバシル氏はジャラリ氏らと会談し、今後の統治について協議した模様だ。 AP通信などによると、ジャラリ首相は9日、政府の閣僚のほとんどは以前と同様、執務を続けていると明らかにした。ジャラリ氏は中東メディアに対し、治安状況は前日よりも改善したとし「我々は政権移譲がスムーズにできるよう取り組んでいる」と述べた。ただ、一部の公務員は職務に復帰しておらず、国境管理などにも影響が出ているとみられる。人道支援物資の搬入も滞っているという。 一方、反体制派の司令官が9日、アサド政権時代のすべての軍人に対して恩赦を与えると発表した。 アサド政権時代の恐怖政治や弾圧に対する報復の懸念が残る中、国内の融和を図る姿勢を打ち出した格好だ。 また、反体制派は「女性の服装について介入することは厳しく禁じられている」との声明も発表した。 HTSは国際テロ組織アルカイダ系の「ヌスラ戦線」が前身で、イスラム教の保守的な解釈に基づく統治が始まることを恐れる住民もいる。このため「イスラム過激派」とのイメージの払拭(ふっしょく)を図ろうとしたとみられる。 アサド政権による恐怖政治が終わったシリアでは9日、少しずつ日常生活が戻りつつあるようだ。首都ダマスカスに住むイブラヒム・ムスレフさん(41)は毎日新聞助手の取材に「正義と公正に基づき新たなシリアを建設する時を待っていた。政権の空白が混乱をもたらさないことを願う」と語った。 ただ、一部では衝突も起きている。ロイター通信によると、トルコの治安関係者は9日、トルコが支援する反体制派が米国の支援を受けるクルド人主体の反体制派「シリア民主軍」(SDF)と交戦し、北部マンビジュを支配下に置いたと明らかにした。トルコは自国からの分離独立を求めるクルド人に対して警戒感が強い。 アサド政権崩壊の混乱に乗じて利害関係が対立する反体制派の組織同士が衝突した形だ。今後も同様の攻撃が広がれば、国内融和はいっそう困難になる可能性がある。【カイロ金子淳】