独居の80代母、死去…世田谷区の400平米の実家を、別居の子が「小規模宅地等の特例」の〈家なき子特例〉でおトクに相続する方法【税理士が解説】
実家の相続税負担を軽くしてもらえる「小規模宅地等の特例」、いわゆる「家なき子特例」ですが、同居の親族のみが使えると認識されている方も多いのではないでしょうか。しかし、要件を満たせば同居していない親族も適用可能です。今回は、家なき子特例の内容、満たすべき条件、適用可能なケースについて見ていきます。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。 【早見表】年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
同居でない親族でも、自宅をお得に相続できる「家なき子特例」
生徒:先日、私の80代の母が他界しました。私は母と別居しており、母はひとり暮らしで、亡くなる直前は老人ホームに入っていました。私が相続する実家は、世田谷区の400平米の大きな土地と建物なのですが、相続税が心配です…。 先生:別居されていたとしても、「小規模宅地等の特例」を使うことができますよ。その場合、相続税が安くなります。ただし、限度面積が330平米なので、400平米の土地の全体に使えるわけではありません。 生徒:「小規模宅地等の特例」とは、どのようなものでしょうか? 先生:「小規模宅地等の特例」とは、亡くなった方が住んでいた家の敷地や、事業を営んでいた土地などを相続した場合に、相続税を安くしてもらえる制度です。自宅の相続に多額の相続税を支払うことになれば、自宅を売却して納税資金を用意することになり、大変です。そのため、相続人が住む場所を失わないようにしてあげることが目的なのです。 生徒:では、私は母と同居していなければいけなかったということでしょうか? 先生:小規模宅地等の特例は、配偶者や同居していた親族などに適用されることが原則なのですが、同居していなくても一定の要件を満たすことで適用できる場合があります。それが「家なき子特例」です。
「家なき子特例」の適用に必要となる、4つの要件とは?
生徒:「家なき子特例」の要件とは、どのようなものでしょうか? 先生:「家なき子特例」を適用するためには、4つの要件を満たす必要があります。1つは、亡くなった方に配偶者や同居の相続人がいないことです。これは、被相続人が、相続人となる親族のだれとも一緒に暮らしていないという意味です。 生徒:具体的には…? 先生:たとえば、父・母・子どもの3人家族で、父はすでに他界し、1人で家に住んでいた母が亡くなったが、子どもは他県で独立している、といった状況は、この要件に該当するでしょう。 生徒:父はすでに他界していますし、母は1人暮らしでした。この要件は満たしています。 先生:2つ目は、相続開始前の3年間、持ち家に住んだことがないことです。これは、賃貸物件などに住んでいた方が対象となるという意味で、「持ち家」というのが、相続人本人の持ち家だけでなく、相続人本人の配偶者の持ち家、相続人の3親等以内の親族の持ち家などが含まれることになるので、注意が必要です。 生徒:私や夫には持ち家がなく、賃貸物件に住んでいるので、要件を満たしていそうですね。 先生:3つ目は、相続した宅地を、相続開始から10ヵ月間所有し続けていることです。 生徒:10ヵ月間所有し続けることが必要であれば、要件を満たすために、売らずに持ち続けます。 先生:4つ目は、相続開始時に居住している家屋を、これまで1度も所有したことがないことです。 生徒:相続した実家は、ずっと母のものでしたから私が所有したことはありません。 先生:その状況なら、家なき子特例を使えそうですね! 生徒:実は、これから相続した実家に私が住もうかと思っています。結果的に私が住むことになるなら、相続が発生する前に引っ越しておいてもよかったのでしょうか…? 先生:いいえ、それでは家なき子特例が使えないのでダメですよ! 相続人が親名義の家に住んでいた場合、持ち家を持っていることと同じ取り扱いになるからです。 生徒:なるほど…。