真面目さゆえの苦しみから救う、かけがえのない生活の術とは? アルコールに溺れる女性に差し伸べられた一筋の光
作品を通して語られる「生活」の秘訣
それでは、生活を共にするわけでもない私たちはどこまで他人に寄り添えばいいのでしょう? 薫子とせつなが両者一歩も譲らない掛け合いをユーモアラスに繰り広げながら、『チケット』の活動を巡って何度も衝突していくのも本作の見どころのひとつです。人間を信じて理解しようとする薫子と、人間から距離を置いているせつな、他者を常に想っているがゆえに正反対でもある二人が「他者とどうかかわっていくか」を悩み、彼女たちらしい結論を打ち出していくさまは爽快です。そして愚直なほどに真面目な二人だからこそ、社会が手を差し伸べようとせず、埋もれていくはずだった苦しみにも気づいていけるようになっています。 本作に登場する人々の生き方は、世間からすれば「不器用」で、社会の目を通せば「損」なのかもしれません。しかし、損得で物事を捉えていると取りこぼしてしまう苦しみを放っておけない真面目さは、愚かではなく冷笑するものでもなく、尊重するべき性格です。そんな真面目さが社会に蔑まれ、自分を見失う悲劇につながらないためにはどうすればいいか。他者とかかわりあいながら営んでいく生活の術が、本書には詰まっています。 ---------- 阿部暁子さんの『カフネ』は全国の書店にて発売中。 阿部暁子(あべ・あきこ) 岩手県出身、在住。2008年『屋上ボーイズ』(応募時タイトルは「いつまでも」)で第17回ロマン大賞を受賞しデビュー。著書に『どこよりも遠い場所にいる君へ』『また君と出会う未来のために』『パラ・ スター〈Side 百花〉』『パラ・スタ ー〈Side 宝良〉』『金環日蝕』『カラフル』などがある。 ----------
あわい ゆき(書評家)