真面目さゆえの苦しみから救う、かけがえのない生活の術とは? アルコールに溺れる女性に差し伸べられた一筋の光
真面目なひとに寄り添うためには
彼女が陥っている状況は言うまでもなく深刻です。真面目なあまり他者を優先してしまう、自らの生活が疎かになり、食事すら義務的になって食べる喜びを見失ってしまう。さらに誰にも迷惑をかけまいと、自分独りでもがいてしまう――悪循環に陥り苦しみ続ける真面目さを前に、合理的な「損得」を振りかざすのはただの乱暴でしかありません。 だとすれば、真面目なひとに寄り添うには、どうすればいいのでしょう? せつなが薫子に差し伸べたのは、正論ではない、温かい食事でした。せつなが作ってくれた料理を口にして、薫子はばらばらになりかけていた自分が修復されていくような喜びを味わいます。彼女はおざなりになっていた生活を助けられることで、自分自身を取り戻すのです。 そして薫子が経験した喜びは、悪循環に陥ってしまっている他の人々にも伝播していきます。その役割を果たすのが、せつなも勤める家事代行会社『カフネ』が無償で取り組んでいる『チケット』です。二時間無料で家事代行を利用できるチケットを顧客に配布し、家事代行者を必要としている知り合いにチケットを渡してもらう『チケット』の仕組みは、顧客同士の、寄り添おうとする思いやりをまず媒介します。それにより、独りで解決しようとしてしまう真面目なひとが利用しやすいサービスとして、自分から声を上げられない人々を苦しみから救うようになっていました。 せつなとコンビを組んだ薫子は、自らが生活を取り戻すことで救われたように、助けを求められずにいたひとたちの部屋をきれいにしていきます。それによって、他者に手を差し伸べようとするのです。「部屋の乱れは心の乱れ」――自分を見失ってしまったときは部屋をきれいにして、生活を営む原始的な喜びを取り戻すところからはじまるのだと、本書は伝えます。 しかし生きている限り、部屋は何度でも汚くなります。そのたびに手を差し伸べていると、再び自分を見失いかねません。だから最後は必ず、自分で自分を救う必要があります。