「みんなそろうまで…」日本航空石川の女子マネ、渡せないお守り
第96回選抜高校野球大会(3月18日開幕)に出場する日本航空石川(石川県輪島市)は能登半島地震の影響で、全部員がそろった練習が今年、まだ一度もできていない。2年生を中心とした約半数の部員は系列の日本航空高(山梨県甲斐市)がある山梨キャンパスに避難して練習を再開したが、残り半数の部員はそれぞれの地元で自主練習している。野球部マネジャーの横田彩弥(さや)さん(1年)の手元には「みんながそろうまで渡さない」と決めているお守りがある。 【写真特集】センバツ出場の知らせを受け喜ぶ選手たち ◇マネジャーをするために寮生活 日本航空石川は1、2年生の全部員67人が学校の敷地内にある寮で生活していた。うれしい時もつらい時も分かち合った仲間たちだ。横田さんは「みんなに会えるのが待ち遠しい」と言う。 山梨キャンパス内の女子寮に余裕があったため、横田さんは2日に山梨入りして練習に合流した。人数が多い男子部員は教室に段ボールベッドを置いて寝泊まりしているが、他の教室の使用状況から、まだ半数が合流できていない。 昨年12月下旬。横田さんは年明けに選手たちに渡そうと、自身も含む1年生36人分のお守りを作り始めた。センバツ出場時に全部員に渡す予定のお守りは、先輩マネジャーの森山尚良(たから)さん(2年)と手分けして既に作っていたが、それに加えて同学年の選手たちに特別なお守りを渡して「今年も頑張ろう」と伝えたかった。昨年の1年生大会の時、手作りのお守りを選手たちが喜んでくれたことが忘れられなかった。 「見ている人に勇気を与えるヒーローになってほしい」との願いを込め、新たなお守りは人気キャラクターのアンパンマンにあやかったデザインにした。 だが、元日の地震で輪島市は甚大な被害を受け、野球どころではなくなった。学校の敷地内や周辺道路はひび割れし、通学できない状態になった。寮や校舎は損傷し、野球部の屋内練習場にも被害があった。 1、2年生の全部員は元日は帰省しており、けが人はいなかった。しかし、富山県高岡市内にある横田さんの自宅も皿が割れたり、テレビが倒れたりするなどの被害があった。 ◇「野球ができないで悩む自分は幸せ」 横田さんは地震から数日間、なかなか寝つけなかったという。 兄が地元の強豪・高岡商で甲子園の土を踏んだ野球一家で育った。兄の応援などで数え切れないほどの試合を見て、最後の最後まで何が起きるか分からない高校野球のとりこになった。 「勉強はどこの高校でも自分次第でなんとかなる。マネジャーは本気で甲子園を目指せるところでやりたい」。いくつかの強豪校を見学し、野球部のマネジャーになりたくて隣県の日本航空石川に進んだ。 それだけに、地震後の球音の聞こえない高校生活は苦しかった。選手は地元に残っていても空き時間に自主練習をしているのに、マネジャーとして何もできない自分がもどかしかった。 気持ちが整理できたのは、医療関係の仕事をしている父のおかげだった。被災した人だけでなく、支援に入ったスタッフも寝食を顧みず懸命に働き続けていると聞いた。「『野球ができない』で悩めている自分は幸せなんじゃないか」。そう思うと、自分の気持ちに折り合いをつけることができた。 中断していたアンパンマンのお守り作りも再開した。集中して取り組むことができ、瞬く間に完成した。 お守りは丁寧に包装され、山梨の寮の自室に保管している。地元に残る部員は近く、山梨で全員受け入れられる見込みだ。 横田さんは「この状況もみんなで乗り越えていきたい」と言う。部員67人全員がそろった時、チームはまた一つ、強くなる。【石川裕士】