イッセー尾形の一人語りが沁みる…教室での世代間の衝突がもたらすものとは? NHKドラマ『宙わたる教室』第4話考察
話すことで広がる輪
定時制高校では世代間の衝突がしばしば起こる、とベテラン教師の木内(田中哲司)は言う。その人がどういう背景を持ち、どんな考え方をするのかは、世代が異なれば大きく変わってしまう。 だが、決してこれは世代だけの問題ではない。隣にいる人がどんな苦しみを抱いているのかを、わたしたちは本当の意味で理解することは難しい。まずはそれを念頭に置きながら、自分の物差しで測ることをやめ、知ろうとすること、想像することを忘れないようにすることから、思いやりは生まれるのだろう。 長嶺は藤竹に促されるまま、クラスメイトたちの前で入院中の妻・江美子(朝加真由美)がどんな環境で生き、どれほど高校への憧れを抱いていたかについて話をする。淡々と語るだけだったが、みな江美子の姿を目の前に思い浮かべたはずだ。 話を聞き終えた岳人は「奥さんの代わりに来てんのか?」と、アンジェラは「いっぱい質問するのは奥さんの前で授業を再現するため?」と問いかける。相手のことを知ること、それにより想像することで、理解につながる。長嶺は答えなかったが、クラスメイトたちとの溝は修復され、また教室に生徒たちが戻ってきた。
イッセー尾形の圧巻の一人語り
天体の衝突は生物の終わりもはじまりももたらすが、東新宿定時制高校における世代間の衝突は誰かを取りこぼすのではなく、新しい輪を広げるきっかけになった。 高校生活を楽しんでほしいと願う江美子の後押しもあって長嶺が科学部に加わったことで、これからはいままでよりも大掛かりな実験装置がつくれるようになりそうだ。長嶺には岳人ほどの科学への興味はないかもしれないが、長年工場で積んできた経験に基づく知識がある。きっと大きな力になることだろう。 今回見どころだったのは、長嶺を演じたイッセー尾形だ。江美子のお見舞いに向かうときの後ろ姿、首にタオルをかけた姿から漂う哀愁もさることながら、約10分間に及ぶ一人語りは圧巻だった。 大きな抑揚も回想もなかったのに、飽きることもなく聴かせる。静かななかにたしかに存在していた緩急と感情表現から、はっきりと情景が浮かんできた。 静かといえば、藤竹を演じる窪田正孝も同様だ。今回は特に静かに見守っている印象が強かった。長嶺が話す場を設けるなど枠を整え、あとは生徒たちに任せるスタンス。 これは第1話で藤竹が語っていた学校というものの在り方に近い。藤竹という教師像に屈強なイメージはないが、窪田が演じることでそこに包容力がプラスされているように感じた。それはまるで、生徒たちを静かに見守る教室そのもののようだった。