東京大学の学費「10万円」引き上げに翻弄される学生たち 現役東大生は「値上げされたら研究者になる道は諦めます」
近年、国立大学の授業料の引き上げが相次ぐなか、ついに東京大学も値上げを検討していると報じられた。引き上げ額は最大で約10万円になるとされるが、その「10万円」は一部の学生や保護者にとって、金額以上の重みを持つ。金銭的に苦労しながら東大に通う現役学生と、受験生の事情に詳しい東大出身の識者に「10万円」引き上げが与える影響を取材した。 【写真】東大に7回落ちても挑戦し続ける芸能人はこちら * * * 「もし授業料の引き上げが決まったらバイトを増やさなければならず、もしかしたら、研究者への道は諦めなければならないかもしれません」 東京大学在学中の男子学生・Aさんはこう肩を落とす。Aさんは文化2類総合文化学科に通う3年生で、将来は言語学者になるのが夢だという。 「言語学者になるには大学院に進学するのが近道ですが、すでにアルバイトを週に4回入れて生活費と家賃に回していますが、研究が忙しくてこれ以上は増やせません。学費引き上げのニュースを聞いたときに、やっぱり諦めるしかないのかなという気持ちになりました」 Aさんは3人兄弟の長男で、両親が小学校の頃に離婚したことから、父親の実家である青森県で育った。兄弟も多く、父親に苦労をかけていることはわかっていたので、高校生の頃から学費の安い国立大を目指していた。地元のファミレスでアルバイトをしてお金をため、予備校ではスカラシップを取り、受験費用は最小限に抑えた。 「本当は言語を学びに海外の大学に行きたかったんですけど、親に苦労がかかるのでそれは諦めて、東大を目指しました。日本で一番難しい東大に入ることが、自分が言語学者になるための最短かつ最安のルートだと思ったんです」
■家庭教師のバイトを週に4日 東大進学後は家賃が安い埼玉県に住み始めた。基本的に実家からの仕送りはない。居住している自治体の生活福祉支援金制度を利用して月2万5000円程度の支援を受け、家賃や食費などの生活費に充てているが、とても足りないので、家庭教師のアルバイトを週に4日して生計を立てている。 「週に4日アルバイトをして、大学で研究をして、学者になるための勉強を頑張っていると、とても余裕なんてありません。サークルに入ると飲み代もかかるので入りませんでした。もちろん、海外への留学なんて夢のまた夢です」 学費に関しては、日本学生支援機構(JASSO)からの貸与型奨学金でまかなっている。4年間で総額300万円くらいの借入額になる予定だというが、将来返済できるかも不安が残る。 「給付型の奨学金も検討しましたが、親の年収が基準より上だったようでダメでした。学費が上がれば奨学金の借入額が増えるわけで、僕が背負う“借金”も多くなる。言語学者の夢を取るか、早く就職して現実的な道に進むか、ずっと悩んではいましたが、10万円の学費引き上げのニュースを見たときに『今でもこんなにきついのに、さらに?』ってショックでした。やっぱり値上げが決定打になった感じはしますね。もう3年生なので、今は民間企業に就職することも視野に入れて動いています」 そもそも、国立大の授業料は、文科省令で年間53万5800円が「標準額」と決められており、東大の授業料も同額だ。だが省令で最大20%までは増額できることになっており、東大が上限まで引き上げた場合、64万2960円となることから、現在より約10万円増える。