2070年、人口は8000万人台に。そのとき日本が直面する「危険な状態」とは?北海道には既に「空白地帯」が発生
集落がなくなれば、行政も撤退します。たとえばオホーツク海の沿岸や、稚内から留萌にかけての日本海沿岸では人がいなくなったため、空白地帯が生まれようとしています。これは国土防衛の観点からも、非常に危険な状態です。 さらに言うなら、「安全保障」という言葉の意味を、もうすこし広くとらえるべきだと思います。いわゆる「限界集落」をすべて維持するのは無理だとしても、公的なリソースを地域に投下しながら、人口2000人くらいを単位に集落を守っていく。
佐藤さんが言われた「沖縄県枠での自衛官採用」のように、公務員として地域の人間を残さないといけません。それが広義での「安全保障」の知恵です。20年後には、その知恵を具体的に生かす必要が出てくると思います。 ■ローカルの力とマイルドヤンキー──佐藤 人口減少に関連して、私は「マイルドヤンキー」と呼ばれる若年層に注目しています。マーケティングアナリストの原田曜平さんが名づけ親ですが、北関東の中核都市周辺に住み、高校を卒業後すぐに結婚して子どもを3~4人つくる。「イオンモールがあれば幸せ」と言って東京に出てくることもなく、バンで移動するような人たちです。
新自由主義的な競争原理が進行すれば、「勝ち組」と「負け組」の選別が明瞭化され、「負け組」に入れられた若者は生き残れません。所得水準から子どもをつくることもできない。そう考えると、子だくさんの「マイルドヤンキー」が人口減少に歯止めをかけているのかもしれません。 彼らは欲望の消費性向こそ強いですが、高望みはしません。従来の不良ほど攻撃性がなく、地元で仲間との絆を大切にします。 また先輩・後輩の繫がりから、人手不足も起きません。先輩たちが仕事の場を提供するからです。彼らは自動車整備工場やラブホテルを経営したり、介護事業にも乗り出したりするなど、多角経営で独自の生態系を形成しています。
そんな地方経営者を、投資家の藤野英人さんは「ヤンキーの虎」と説明します。「マイルドヤンキー」と「ヤンキーの虎」によるネットワークが、100%の就業率と人手不足解消を実現しているのです。 「マイルドヤンキー」たちは、モノを仕入れるのも市場原理とは異なり、仲間内ですませる傾向にあります。さらに、彼らは市議会議員など地域の政治エリートと一体化しています。 私は、こうした地方都市でたくましく生き残る人たちを見て、グローバリゼーションに抵抗しているのだなと思いました。ローカルの力は侮れません。そして、それがまた自民党の支持基盤になっているのです。
佐藤 優 :作家・元外務省主任分析官/山口 二郎 :法政大学教授