フィンランド「学習困難への介入」最新研究の中身 子どもによって異なる効果、違いの要因に迫る
タブレット端末を用いた「ゲーム課題」を活用
では、いったいどのような介入を行っているのでしょうか。今回用いている介入プログラムには、週に1回、対象となる子どもたちが対面で集まり、グループごとにさまざまな読み課題を行う取り組みが含まれています。 読み課題はいくつかあるのですが、例えば、「1分読解課題」があります。子どもたちはそれぞれ自分で、あるいは先生と一緒に選んだテキストを、時間を測りながら1分間声に出して読み、どれくらい正確に読めたか、どれくらいの時間で読めたかを読解チャートに記録していきます。同じテキストを数回繰り返して読むので、子どもたちはチャートを見ることで自分のスキルの向上を確認することができます。 そのほか、学校での自主学習や家庭学習における介入も実施しています。例えば、自主学習としては、ICTツールを用いたゲーム課題に取り組みます。「Lukukupla」と呼ばれるユヴァスキュラ大学のUlla Richardson教授が率いる研究チームが開発した、オンラインの読み課題を行うゲームです。 子どもたちはまず、学校のタブレット端末にそのゲームのアプリをあらかじめ先生にダウンロードしてもらい、自分のキャラクターを選んで課題を始めます。ゲームは、ある教授の研究室に訪れて課題を解決するところから始まり、読解課題をクリアする度にシャボン玉の中の星を集めることができるという設定。 初めの3つの課題でその子の読み能力をアセスメントし、能力に合わせた課題へと移行して習熟度に合わせて進んでいく流れになっています。私たちの介入研究では、子どもたちはこのゲーム課題を週に3回(1回15分)、クラス担任と決めた時間に行ってもらっています。
ICTツールは長所と短所を理解して活用を模索
ICTツールを用いた学習にはさまざまな声があることも事実です。ICT先進国である隣国のスウェーデンは最近、これまでの積極的にICTを教育に用いていく方針から、古典的な紙の本を導入するための資金を投入して、ややアナログな方法に戻ることを発表しました。フィンランドでも、ICTツールを用いた学習がコロナ禍以前から行われてきましたが、これらの過度な使用が子どもの集中力ひいては学習力の低下につながっていると警鐘を鳴らす現場の先生もいます。 私たちのプロジェクトも、ICTツールを全面的に用いて介入を行うことは考えていません。先行研究の中には、ICTツールを子どもが一人で行っても効果は上がらず、先生などの大人と一緒に行った場合にのみ読み能力に効果があったことを示すものもあります。 一方で、ICTツールを用いる利点もあります。例えば、前述したゲームは、子どもの習熟度に合わせて進めていくことができますし、子どもも楽しんで行うことができ、読むことに対するモチベーションも上がる可能性があります。また、子どものレベルに合わせた教材を準備する十分な時間が取れない先生たちの助けにもなります。 ICTツールは日々進化し、新しいテクノロジーの使用にはつねに恐怖が伴います。しかし、それを怖がって全面的に禁止するのではなく、その長所と短所を理解し、最も有効な活用の仕方を模索していくことが必要だと私たちのプロジェクトでは考えられています。 今回、このICTツールを含む介入プログラムが読み能力の促進に効果があるかどうかという部分も重要ですが、前述したように、介入で効果が非常にある子もいればそうでない子も出てくると考えられます。 そうした違いに関係している要因(情動的要因、環境要因、先生の要因など)があるのかどうかを明らかにすることが本研究の一番の目的です。介入効果の違いに影響がある要因がわかれば、今後はそれらの要因に配慮した介入や、その要因そのものにアプローチする介入もできるようになることが期待されます。 現在、13週間の介入と測定まで終わっており、これから集められたデータの点検や予備分析を進めていきます。また、同様の13週間の介入を来春にも行う計画で、協力してくださる先生方と子どもたちは増える予定です。 数年先にはなりますが、今回の研究成果は、学術論文として発表するのはもちろん、集めたデータを基に参加された先生や保護者にフィードバックを行ったり、近年の研究動向やInterLearnの研究成果を説明するセミナーを行ったりと、現場に届く形での発信も行っていきます。 日本にもその成果を発信できたらと思いますが、InterLearnについて詳しくお知りになりたい方は、私たちのホームページと下記の参考文献をご覧ください。 ■参考文献 Aro, M., & Aro, T. (2023). Two Future Challenges for Learning Disability Research. LD 研究 (Japanese journal of learning disabilities/日本 LD 学会編集委員会編), 32(3), 216-222. (注記のないイラスト:Terese Bast)
執筆:矢田明恵・東洋経済education × ICT編集部