フィンランド「学習困難への介入」最新研究の中身 子どもによって異なる効果、違いの要因に迫る
同じ介入でも「子どもによって効果が違う」という事実
デジタル先進国と言われるフィンランドでは、教育現場においても1990年代からICTの環境整備が推進され、インクルーシブ教育に関する研究でもICTが活用されてきた。そして今、同国の2つの国立大学において、ICT活用も含む「学習困難児への介入」の研究が新たに進められているという。その研究に関わっている公認心理師の矢田明恵氏が、詳細をリポートする。 【画像】フィンランドのICT 私は現在、ユヴァスキュラ大学とトゥルク大学(共にフィンランド国立大学)が、共同で学習困難についての研究を行う中核的研究拠点(Centre of Excellence for Learning Dynamics and Intervention Research、InterLearn;以下、InterLearn)にて、ポスドク研究員として働いています。 InterLearnは、Research Council of Finland(※)の助成を受け、2022年に発足、2029年まで継続予定の研究拠点です。その大きな目的は、学習困難についての縦断研究や介入研究を含む幅広い研究を行い、その成果を社会に還元することにあります。 ※日本でいう学術振興会のような、さまざまな研究プロジェクトに資金を提供する機関 ここで、医学的診断に用いられる「学習障害(Learning disabilities)」ではなく、「学習困難(Learning difficulties)」という用語を用いているのは、フィンランドのインクルーシブ教育が「社会モデル」に基づいており(関連記事参照)、学習障害だけでなく、「広く学習に難しさを抱える子どもについて研究する」という考えが背景にあります。 これまで、日本だけでなく、世界各国で学習障害を含む学習困難に関する支援や介入方法についての研究が行われてきました。中には、有効な介入方法も数多く開発・紹介され、実際の学校現場の教育実践に適用されています。 一方で、同様の介入方法を用いても、効果のある子どもとまったく効果を示さない子どもがいるのも事実で、その要因として神経発達、認知発達、自己統制、社会情動的発達、学校環境、家庭環境などさまざまな背景が関わっていると指摘されています。こうした多様な要因と介入方法、および学習困難のその後の発達がどのように関わっているかを、包括的に捉えた研究はまだまだ少ないと言われています。 そうした現状から、InterLearnでは、学習困難に関わる多面的なデータを収集し、支援の効果に影響を及ぼすさまざまな要因を網羅的に明らかにすることを目指しています。具体的には、6つの下位プロジェクトに分かれてデータの収集や分析等を行っています。プロジェクトの内容は、妊娠期から学齢期まで縦断的に子どもの発達を追っていくものや、脳科学と学習困難の関係を研究するものなど多岐にわたり、私はデータ分析などを担当するプロジェクトに所属しています。 その中に、問題行動、読み困難、算数困難がある子どもに介入を行い、その成果とさまざまな要因との関係を明らかにしようとするプロジェクトがあります。本稿では、今年2月から実際に介入が始まった、読み困難(Reading difficulties)がある子どもへの介入研究について紹介したいと思います。