瀧本美織×玉森裕太×藤ヶ谷太輔×八乙女光『美男ですね』に刻まれた2011年の“奇跡”
玉森裕太が出演するTBS系列の新火曜ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』の放送に合わせて、連ドラ初主演作(瀧本美織、藤ヶ谷太輔、八乙女光の4人主演作品ではあるが)となった『美男ですね』が先月からU-NEXT、TVerなどで配信されている。同作の見放題での配信は今回が初めて。地上波でテレビドラマの再放送枠がめっきり少なくなったことにはもう慣れたが、近年では相次いでレンタルショップが閉店していることもあり、配信が行われないと観る機会が得られない作品はかなり増えてしまった印象だ。 【写真】『あのクズ』では金髪姿で出演の玉森裕太 余談ではあるが、前クールにも『ブラックペアン シーズン2』(TBS系)にあわせて二宮和也が過去に出演したTBSドラマが何作か配信されるようになり、そのなかにはVHS以降で鑑賞機会が一切なかった1998年放送の『あきまへんで!』(TBS系)も含まれていた。そもそも連続ドラマは映画と異なり、元々テレビというコンパクトな画面で観るために設計されたものであり、何巻かに分けて都度レンタルしなければならなかった(しかもレンタル中で巻抜けがあったりもした)レンタルショップ時代を考えても、配信サービスとの相性はかなり良い。今後もこうした取り組みが増えて、懐かしいタイトルが再び日の目を見ることには期待しておきたいところだ。 閑話休題。この『美男ですね』という作品は2011年の夏クールに金曜22時枠で放送されていた作品。多くの人が知る通り、2009年に製作された同名韓国ドラマの日本リメイクである。いまではすっかり国際的なコンテンツになった韓国ドラマだが、当時はまだアジア圏にしか波及していなかったと記憶している。2000年代前半の『冬のソナタ』を発端に日本では“第一次韓流ブーム”が巻き起こり、その流れで韓国コンテンツが急増。オリジナル版の『美男ですね』が日本で放送・DVDリリースされる直前の2000年代後半には(他のタイトルを挙げるとキリがないので省略するが)、より若い年齢層をターゲットとした作品が大量に紹介され、“第二次韓流ブーム”へとつながったのである。 この“第二次韓流ブーム”は、映画やテレビドラマもさることながら、現在まで続いているK-POPミュージックのブーム第一期とも重なるわけで、人気アーティストが俳優として出演していた作品がブームの火付け役として機能し、相互に高め合っていた時期といってもいいだろう。このオリジナル版『美男ですね』も同様で、当時すでに歌手活動も行なっていたチャン・グンソクをはじめ、CNBLUEのジョン・ヨンファ、FTISLANDのイ・ホンギが劇中のバンド「A.N.JELL」のメンバーとしてメインキャストを務めている。また、ヒロインとして一人二役に挑んだパク・シネも、同作以前の出演作で歌声を披露したことがあり、後々歌手活動も並行して行なっている。 そうした各々の演者の個性を踏まえると、この日本版リメイクにおけるキャスティングの強烈なキラキラ感は、まさしくオリジナルを踏襲したものだと捉えることができよう。現STARTO ENTERTAINMENTの2グループから3人のメンバーを選りすぐり、しかも玉森と藤ヶ谷のKis-My-Ft2に関してはデビューに合わせた絶好のタイミングで、主題歌も彼らのデビュー曲「Everybody Go」が使用されている。また、瀧本も元々ダンス&ボーカルグループの出身であり、朝ドラ『てっぱん』(NHK総合)の後の最初の主演作という点で大きな注目を集めていたタイミングだったことも見逃せない。 物語の大筋に関しても(もっとローカライズして良かったのにとも思うが)オリジナルをなぞり、修道女として修行をしていた美子(瀧本美織)が、ローマ行きを控えた直前に人気バンド「A.N.JELL」のマネージャー(柳沢慎吾)に懇願され、新メンバーに決まった双子の兄・美男(瀧本美織/二役)の替え玉として、男性と偽ってバンドに加わることになる騒動が展開。いわゆる“替え玉”作品となると、替え玉をしていることがバレてしまうことに重きが置かれ、起承転結の“転”としてそれが機能しがちではあるが、本作はそうはならない。早々に替え玉であることが周囲にバレて、それが物語を動かす“承”の要素として機能させていくのである。 メインキャストにフォーカスを当ててみれば、まず玉森が演じたリーダーの廉は美子の相手役として、彼女が替え玉であることを知り、美子も“知られている”と知った上で関係が構築されていく。ある意味では、替え玉というギミックそっちのけで2人のシンプルなラブストーリーとも見ることができるのだ。神経質でいつも不機嫌そうな廉のキャラクター性もまた、単なる設定に終わらずにストーリーに寄与している点は、確固としたオリジナル版の存在があってこそだろう。最近では穏やかな愛されキャラの役どころが板についた玉森の、こうした若々しくてトゲのある感じは、かえって新鮮に思えてしまう。 対照的に藤ヶ谷が演じた柊は、いわゆる“かませ犬”ポジションというべきか、誰よりも早く美子の素性に気が付き、それを胸に秘めたまま彼女をそっと優しく支える。トゲトゲしい廉との対称性を考えても、『花より男子』における花沢類のような“白王子”である。そして八乙女の演じた勇気は完璧なコメディレリーフでありつつも、美子を男だと思い込んだまま惹かれていく様は、放送当時と現在ではかなり見え方が変わってくる役どころといえるかもしれない。いずれにせよ、『3年B組金八先生』(TBS系)と『オルトロスの犬』(TBS系)と、影を帯びた役柄が続いていた八乙女に、それらとは正反対のキャラクター性を与えてくれた役柄でもあるのだ。 テレビドラマは映画以上に“その時代”の、とりわけ流行に強烈に反映される作り込みがされるもの。いかにもビジュアルからオリジナル版に寄せようという感じで作られた突飛なシチュエーションのなかには、ファッションやメイク、振る舞いから価値観に至るまで、2011年当時のカルチャーが存分に記録されている。そしてなにより、作品自体に近年のテレビドラマにはない底抜けの軽薄さ(褒め言葉)があり、こうした作品はもうなかなか作られないだろうなと思わずにいられない。キャスト陣の成長を記録するものとしても、2011年当時のカルチャーの貴重な資料としても、配信サービス上に永続的に残されてくれることを願うばかりである。
久保田和馬