「夏の甲子園」で名勝負!プロで活躍する選手同士が演じた“忘れがたき因縁対決”
2013年の阪神・中野拓夢vs西武・高橋光成
阪神・中野拓夢と西武のエース・高橋光成の甲子園対決が実現したのが、2013年。日大山形の2年生・中野は、2番セカンドとして初戦の日大三戦で2安打2打点を記録するなど、攻守にわたって山形県勢初の4強入りに貢献した。 準決勝の相手は前橋育英。2年生右腕・高橋は、4試合で自責点ゼロと抜群の安定感を誇っていた。 1回表。中野は初対決の高橋から中前にチーム初安打を放つ。さらに連打と四球で1死満塁とし、次打者も二塁方向に強烈な打球を放ったが、二塁手がショートバウンドで掴み、4-6-3の併殺に切って取る超美技。中野の先制ホームインは幻と消えた。 好守で流れを引き寄せた前橋育英は、初回から3イニング連続得点で3対0と序盤で試合を決めた。前の試合で自打球を右膝に当て、「調子は良くなかった」という高橋も、6回に犠飛で1点を許したものの、被安打7の104球完投勝利で、チームを決勝戦に導いた。 一方、中野は2打席目以降、三振、送りバント失敗の三ゴロ、三邪飛に打ち取られ、「2番打者として自分の仕事を完遂できなかった」と悔やんだが、守備では再三好プレーを見せた。 4回にヒット性のゴロを踏ん張って一塁に正確に送球。7回無死二、三塁のピンチでも、一、二塁間を抜けそうな打球を横っ飛び好捕するなど、現在の“異次元の守備範囲”を彷彿とさせるプレーで、4試合連続無失策を記録している。
交流戦で再対決というアツい展開に
両者は今年6月8日の交流戦で同じ甲子園を舞台に再対決。今度は中野が高橋から一塁線に先制タイムリー二塁打を放ち、11年前のリベンジをはたした。 前出の高橋とともに西武のエースを務める今井達也も、作新学院時代の2016年夏、準々決勝で楽天のエース・早川隆久(木更津総合)と記憶に残る投手戦を演じている。 栃木県大会4試合で33三振を奪った今井は、甲子園でも2試合で23奪三振と本領発揮。球速も初戦の尽誠学園戦で151キロ、3回戦の花咲徳栄戦で152キロと、投げるたびに自己最速を塗り替えた。 一方、抜群の制球力を誇る左腕・早川も2試合連続完封。三塁を踏ませないどころか、二塁を踏ませたのも2試合で1回だけという安定ぶりだった。 だが、この日の早川は、立ち上がりに制球が乱れる。1回、入江大生(現・DeNA)に真ん中高め直球をバックスクリーン左に運ばれ、3回にも山ノ井隆雅に右越え2ランを被弾。いずれも2死からの失点で悔やまれたが、4回以降は4安打無失点と立ち直り、味方の反撃を待った。 6回まで木更津打線を3安打無失点に抑えた今井も7回、タイムリーで1点を失うが、なおも2死一、二塁のピンチで、二塁走者を咄嗟の機転でノーサインのけん制タッチアウト。 8回1死一塁でもフェンス直撃の二塁打を許すが、好返球で本塁タッチアウトと、今度はバックに助けられた。結果的にこの2つのプレーが大きくモノを言う。 そして、9回2死、「最後は気持ちで投げた」とギアーを上げた今井は、早川を151キロ直球で空振り三振に打ち取り、ゲームセット。“事実上の決勝戦”を制した作新学院は準決勝、決勝ともに大勝し、今井は優勝投手になった。 今年3月29日の開幕戦で、両者のプロ初対決が実現し、7回無失点の今井が勝ち投手に。4月19日の再対決も今井に軍配が上がっている。 久保田龍雄(くぼた・たつお) 1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。 デイリー新潮編集部
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